初めての仕事
「おい、カズヤ! 起きろ! そろそろ起きろって!」
朝5時にも関わらずカズヤは、ウンコに叩き起こされた。
カズヤは目を覚ましたが体を布団に潜り込ませて、光から逃げてしまった。
「なんだよ……こんな時間に。まだ朝5時じゃん!」
目を擦りながら時計を確認したカズヤは眠そうな声でウンコに怒りながら、芋虫のように布団に戻った。
「仕事に行くんだよ。昨日お前が家燃やした時に、お金全部なくなってんの。だからクエスト行くんだよ、クエスト」
なかなか起きないカズヤの布団を引き剥がして、ウンコは耳元で叫んだ。
寝起きで不機嫌だったが、異世界らしい響きに興奮してカズヤは目を輝かせて覚醒した。
「お、ついに行くのか! 始めての異世界イベント!」
クエストに食いついたカズヤはベッドから飛び起きて、服を着替え始めた。
「あぁ、ちなみに今回は3人別行動だからな」
クエストという響きにワクワクしていたが、別行動と言う言葉でカズヤはズボンを履く体制のまま固まった。
「え、なんで。俺まだ弱いの知ってるだろ」
絶望しながらカズヤは半裸の状態で、ベッドに座り込んでしまった。
「効率よく金稼がなきゃいけないの、初級クエスト選べばいいだろ。ミカーヤはもうクエスト行ってるから、俺達も行くぞ! 朝ごはん食ったら酒場で店主に聞け!」
カズヤは重い腰を上げて、寝ぼけた頭で一階まで降りた。
一階の居間には、ミカーヤが作ったであろうサンドイッチが置いてあった。
カズヤはサンドイッチを食い、顔を洗い服を着替えて酒場まで走った。
「初めて行くのに場所わかるって、相変わらず変な感じだな。ファラメイション説明省けていい魔法だわ」
酒場に入るとこんな時間にも関わらず、いかにもな冒険者風の男女や獣人がたくさんいた。
カズヤはカウンター席に腰をかけ、あたりを見回した。
酒場の中にはお酒を飲んでいる者、話し合っている者、武器の手入れをしている者と、よりどりみどりの過ごし方をしていた。
「こんな時間なのに、結構人いるんだな」
「質のいいクエストの取り合いだからな。金稼ぎたいやつは、早朝から来ることが多い。ところであんちゃんその立ち振舞を見る感じ初めてだろ! 色々教えてやるよ」
振り向くと筋骨隆々の髭の生えたオッサンが立っていた。
オッサンは酒やグラスの手入れをしながら、カズヤを見下ろしていた。
「あんたがマスターかい? ちょうど良かった、聞きたいことがあってな!」
「おう! 何でも聞きな! あんちゃん」
カズヤの言葉に店主はグラスや布巾をおいて、気前よく話しに乗ってくれた。
「早速クエスト受けたいんだが、どうすればいいか教えてくれ」
「クエストはだな、あそこに掲示版があるだろ? 貼られてる紙をここに持ってきたら、俺が手続きするんだ。ちなみに右側が初級、真ん中が中級、左側が上級クエストだ。」
店主が指した方を見ると、確かに紙が大量に貼られた大きな掲示版があり、冒険者達が群がっていた。
「ありがとよ。早速いってくるわ!」
早速掲示版の元に駆け寄ってみると、遠目ではわからなかったが、そこには変な御者が立っていた。
「あ! お前は! 変な御者!」
変な御者はカズヤの声にビックリして顔をしかめたが、振り向いてカズヤの顔を見ると、またいつもの渋い顔に戻った。
「おう……あんちゃん! オイラはなぁ……おうちゃんと話してから、自分探しの旅に出たんだよ! そして冒険者に転職したぁぁ……そこで聞きたいんだがよぉ……初級クエストってどれだぁ?」
変な御者は掲示板に背を向いたまま手で寄りかかって、顎で掲示板を指しカズヤに聞いてきた。
その態度に腹を立てながらも、カズヤは優しく店主に聞いたとおりに教えた。
「初級は右側のやつだよ」
「あんちゃん……右ってどっちだぁ」
「お前そんなのもわかんねえのかよ! 箸持つ方だよ!」
面倒臭い御者にカズヤは腹を立てながらも教えてあげた。
「するってぇと……オイラは左利きだからこっちが初級か」
そう言いながら変なおっさんは、上級のオーガ討伐のクエストを持ってカウンターに走った。
カズヤは放心しながら変な御者を見送ると、自分のするクエストを探し出した。
「何だあいつ……まぁ死にはしないだろ。おーれーは! 弱そうな中級のこれ!」
カズヤは一枚の紙を持ってカウンターまで走った。
カウンターに行くと、カズヤは店主に自分が取った紙を渡して手続きを待った。
「決まったかい、あんちゃん! 子鬼討伐か! 頑張れよ! 手続き用のハンコ出すから待ってろ」
店主はカウンターの奥をゴソゴソしながら話した。
引き出しを開けたり、箱を開けたりして、ハンコを探しているが、なかなか見つからないようだ。
「中級といえばな! さっきピンク髪のちっさい女の子も、中級選んでたんだよ! 若いのに頑張るよなぁ……後臭いウンコも中級行ってたな、なんで意思持ってたんだろうな」
見に覚えがありすぎる二人に、カズヤは恥ずかしさを隠しきれなかった。
自分の仲間が知らない所で話題になると、自分でも少し誇らしく思い、モジモジと見をよじり始めた。
「見つけたぞ……っとあんちゃん何モジモジしてんだ? まぁ、話に戻るが。これからはこのハンコが、あんちゃん専用手続きハンコだ!」
カズヤは店主から四角い大きなハンコを貰った。
大きなハンコは想像よりズッシリとしており、カズヤは思わず両手で持ち直した。
「専用って言ってるけど、一人一個ずつ持ってたらハンコで店が埋もれないのか?」
「そこらへんは大丈夫だ。冒険者ってのは殉職がよくあるから、空きなんてよくできる。」
「へー。聞きたくなかったな」
「ハハッ、だよな。それで話戻すが。そのハンコに魔力を込めて、この紙を押すんだ。後ハンコはこっちで預かるから、終わったら返してくれ」
魔力を込めるということなどした事ないカズヤは、戸惑いながらも試行錯誤していた。
その姿を見て店主は仕方がないなと思いながらも、手を取って説明をした。
「いいか? まず、精神の核を見つけるんだ。目を閉じて意識を張り巡らせた時に、満たされた感覚がどこかにあるはずだ、まずそこを探せ。」
店主に言われたとおりに、カズヤは瞑想を始めた。
しばらく集中していると、右腹部に何か円形の大きなものがある感覚がした。
「見つけたみたいだな。そこから、全身に力を回すイメージをしてみろ」
店主の言うとおりに腹部から全身に広げていくと、カズヤの体が青く光り始めた。
「お! できたじゃねえか!」
魔力が入ってい行くと、ハンコはみるみるうちに形を変えて、『イルバヤタ』の文字が掘られた。
魔力を込めながらハンコを押し付けると、インクをつけてもないのに綺麗に押されていた。
「よし! これでハンコは、あんちゃんの魔力を覚えた。身分証明みたいなもんだ」
カズヤは早速紙に描かれた地図を見ながら、酒場を出てゴブリンのもとまで走った。
モンスターに遭遇しないように、気をつけて進みながら、20分ほど草原を進んだ先の崖の根本に小さな洞穴があった。
「ここが巣か。えーとなになに? 最近モンスターが活発になってきてるので、10匹ほど倒して大人しくさせてください……か。簡単だな! 10匹ぐらい! どうせゴブリンだ!」
カズヤは意気揚々と洞穴の中に入った……
外からは考えられないほど中には光が入ってこず、カズヤは体をあちこちぶつけながら深部へ進んでいった。
「結構狭いな……まぁ、ゴブリンだからちっさい洞穴でいいんだろうな」
洞穴を2分ほど進んだら開けた場所に出た。
そこまでの一本道にはゴブリンなど一匹もおらず、順調に洞窟を進んでいった。
直感的に洞窟の最深部だと気づいたカズヤは、警戒しながら中に入っていった。
「お? ゴブリンいそうな所に来たな。それにしても暗い。松明とか持ってくるんだった」
カズヤはゴブリンを探すべく壁沿いに広間を一周したあと、地道に段々と一周の円を縮めていき中心部についた。
「あれ? ゴブリンいなくね? 嘘のクエストだったのかな?」
ゴブリンがいない事に頭を傾げ、広間の真ん中で座り、考え込んだ。
そのうち暇になりカズヤは広間で、スキルの実験を行っていた。
スキルで遊んでるうちに洞穴の入り口から声が聞こえた。
「何だ何だ? 同じクエスト選んだ人でもいたのか?」
カズヤは入口の方に耳を澄ませていた。
心音が高くなっている自分に邪魔されながら、なんとか聞き出した。
【ギギャギャギャ】
「この声と言葉、俺の脳内ゴブリンと一致する。外に出てたのかよ。しかも数が多そうだ、どうしよう……不意打ちするしか」
カズヤは物音を立てないように細心の注意を払い、広間につながる道の脇に立った。
足音が段々と近づいてくると、次第に体が力んでいった。
「今だァァァァ!!」
ベストタイミングでゴブリンの顔面に膝蹴りを入れた……
が、所詮は戦士のレベル1程度。中級クエストのゴブリンにダメージを負わせるほどではなかった。
「ごめんなさい! ごめんなさい! 冗談じゃないですかぁ! 冗談だって冗談! この僕があなた達を、倒そうとするはずがないですよ!」
効かないと分かるや否やすぐさま土下座をして、聞いたことない速度で喋り始めた。
土下座をしながらも距離を取ろうと、少しずつ後ろに下がって距離を取った。
【ギ? ギギャギャ?】
先程、殺意を込めて蹴り込んできた男がいきなり平伏した事でゴブリンは困惑していた。
一本道だったおかげで目の前には、カズヤが蹴った事で、混乱しているゴブリン一匹のみ、そのチャンスを最大限活かすために、カズヤは頭をフル回転させた。
(考えろ俺! 困惑している今がチャンスなんだよ! 逃げ方を探すな! 倒す方法を考えろ! あ~二人のどっちかいてくれたらなぁ!)
生き残るため精一杯方法を考えてある方法を思いついた。
顔をあげるとゴブリンは律儀にカズヤを待っており、立ち上がると警戒して後ろに後ずさりした。
「こいつら頭悪いし、ファラメイションでデーモンキーの姿見せたらビビるんじゃね?」
カズヤはデーモンキーの姿、恐怖、破壊力、生態を完璧に思い浮かべて、ゴブリン達に向かって、ファラメイションを行った。
案の定ゴブリンはいきなり脳内に現れたデーモンキーを恐れ困惑し、出口まで走った。
一本道では一人ずつしか逃げられない為、ゴブリンは我先にと仲間を踏み越えてでも逃げようとしていた。
「はっ! 隊列が乱れてるぜ! 後は確実にスラッシュで首を掻っ切る!」
カズヤも一本道に入ってゴブリン達を追いかけた、カズヤが来るとゴブリン達はよりいっそうパニックになり、もたつきながらも走り出した。
カズヤは逃げ惑うゴブリンの首を狙い、一匹一匹確実に倒していった。
「っとと! これで十匹だな! え~と、証拠にゴブリンのちっさい角をもってこい……っか。道具持ってないしスラッシュで取るか。一応レベル上がったかステータス確認しとこ」
カズヤは倒したゴブリンを洞穴の外に引きずり出すと、スティールで角を切り取った。
カズヤは十個の角を持って酒場に戻った。
「ほいマスター。クエスト完了したぞ!」
酒場について角が入った袋と紙をカウンターに置くと、店の奥にいた店主を呼んだ。
「お疲れさん! 待ってろよいま代金持ってくるから」
店主は角が本物かを確認すると、紙と角を持って店の奥に行った。
しばらく待っていると袋にお金を詰めて、店主は戻ってきた。
「お待たせ。12万円ぴったり! 持っていきな! まだ行きたいなら、紙を取ってこい」
店主はカズヤにお金を渡すと、元気づけに背中を思いっきり叩いた。
「結構少ないんだな。数十万は貰えると思ったんだけど……」
お金を受け取ったカズヤは袋を見ながら漫画やゲームと比べて、少なかった報酬金を見ながら現実を知った。
「それはクエストの質だからな! 初級でもこれより稼げる物もあるし、ちゃんと選ばないからだ」
それを聞いて浪漫が死んてない事が分かると、カズヤは喜んだ。
カズヤは貰った代金を腰にひっかけると、掲示版まで走った。
「十匹も倒したからレベルが上がった! しかもこのお金で装備を買える! 中級があのレベルなら……行くか? 上級」
カズヤは念入りにクエストの内容と代金を確認して、質が良いものを探し、上級クエストを手に取った。