仲間が増えた
「レベルが上がる唯一の方法? 何なんだそれは、教えてくれ!」
魅力的な話にカズヤは食いつき、目を輝かせながらミカーヤに頼み込んだ。
ミカーヤはカズヤが話に乗った事で、嬉しそうに笑みを浮かべた。
「いいですよ、教えてあげましょう! でも、一つ条件があります」
「条件だぁ? 結局そういうやつかよ」
突如舞い降りた希望の光が、途端に変貌した事でカズヤは絶望して、怪訝そうな顔をしてブツブツ言っている。
「至極簡単なことです! 私を仲間に入れてください」
ミカーヤの願いにカズヤは顔を引きつらせた。
悪い予感は外れたが、これはこれでカズヤを困らせた。
ただでさえ弱い自分に、こんなチンチクリンを入れるパーティ枠があるのかと、もう少しいい仲間を探したほうがいいんじゃないかと。
「レベル上げの方法は魅力的だけどさぁ、俺自身が弱いから今欲しいのは即戦力なわけ。サポートはいらないんだよなぁ」
カズヤの突き放すような冷たい言葉に、ミカーヤは目を潤ませながら抱きついてきた。
相変わらず凄い力で、カズヤは背骨の軋む音が聞こえてきた。
「いいじゃないですかぁ! 私ご主人が亡くなられてから、ずっと暇なんですよぉ!」
泣きわめいたと思ったら、いきなりカズヤを突き飛ばしてうずくまり、またしても叫び始めた。
ミカーヤの変貌に、カズヤはついていけそうになかった。
「あ~もういいんだァァ! 私はどうせ一生孤独で、一人朽ち錆びていくんだぁぁぁぁ」
ミカーヤは叫びながら体をくねらせ、関節の可動域を超えて蠢き始めた。
ぶっちゃけた話し少し気持ちが悪い。
人形のロボットが関節を無視して動く様に、カズヤは少し後退りした。
「めんどくさぁ……俺お前の情緒がわかんねえよ。もうわかったから、仲間入れてやるから! その、気持ちわるい動きやめろ」
カズヤは顔が見えないが、ミカーヤがニヤリと笑ったのが分かった。
動きをピタリと止め、ミカーヤは目を輝かせながらカズヤに抱きついた。
「ありがとうございますぅぅ! カズヤさんんん!」
無理矢理引き剥がそうとするが、相変わらず強い、そろそろやめてほしい流れに、カズヤは目を潤ませた。
「わかったわかった! お前ロボットだから体温なくて冷たいんだよ離れろ! そしてレベル上げの方法を教えろ!」
ミカーヤは渋々カズヤからと離れ、椅子に座り話を進めた。
安心してカズヤも椅子に座ろうとしたが、どこを探してもなかった。
「この部屋に椅子はひとつなので、床に座ってください。話を進めます」
「もうお前のキャラ分かんねえから、早く終わらせてほしいよ…」
不満を漏らすカズヤを無視して、ミカーヤは話を進めた。
ミカーヤの自己中的な進め方に、カズヤは肩を震わせ、今にも涙が溢れ出てきそうな目を押さえた。
「まずカズヤさん動物や虫を殺せますか?」
「どっちも無理だな、モンスターだったら覚悟決めれるけど。動物は可哀想だし虫は気持ち悪い!」
「なんかエゴの塊ですね。ならば方法は一つしかありません。その方法とは!」
「その方法とは!?」
「うんこを踏み潰してください」
「は?」
カズヤはミカーヤの言ってる事を理解できなかった。
ここまで苦労して手に入れた情報が、想像を絶する最悪な物だった事で、カズヤの中で何かが切れた。
「レベル上げとうんこ踏み潰すのに、なんの関係性があるんだよ! からかってんのか!」
カズヤは立ち上がってミカーヤに近づき、怒鳴りつけた。
カズヤが怒った事で、流石に焦ったミカーヤは、抑制させるためにカズヤに椅子を譲り、椅子の前で丁寧に説明を始めた。
「落ち着いて聞いてください! いいですか、うんこには小さな虫とかがいるんですよ! それを踏み潰して経験値を貰えば、レベルが上がるのです!それなら虫が視認できないので、気持ち悪くはないですよ」
「理にかなっていても嫌だよ! 虫か動物のほうがまだマシだよ!」
いくら説明されても嫌なものは嫌、カズヤは立ち上がり部屋から出ようとしたが、すかさずミカーヤは服の袖を掴み引っ張り、部屋の中央に引きずり飛ばした。
「うるさァァい! 私はうんこを踏み潰す、無様なカズヤさんが見たいのです。 何年1人でいると思ってるんですか、暇人には刺激がほしいのです」
「お前の意味わからねえ私情じゃねえか! しかも初対面の相手の、無様な姿みたいってなんだよ! 近づくな俺は行かねえぞ絶対! やめ―――
―――ろって言ったじゃん!何がサポートしかできないだよ!大人一人15分も引きずり回せる少女がどこにいるよ」
ミカーヤはカズヤの話を聞く気はすでになくなっていた。
当たりを見回して、周りにモンスターがいない事を確認したミカーヤは、草の根をかき分け始めた。
「草原に付きましたね! この辺りは結構動物やモンスターのうんこが、いっぱいあるので沢山踏めますよ! ほら!」
「嫌だって言ったのにさぁ、分かったよ」
カズヤは渋々うんこを踏み始めた、グチュグチュと潰れた嫌な感覚が靴を通して足に伝わるたびにカズヤは顔を歪めた。何個も踏んでるうちにカズヤは良い復讐の案が浮かんだ。
「レベル上げするなら仲間もしなきゃいけねえよな! ミカーヤ! お前もうんこ踏めよ!」
「私のステータスはそこらの戦士の2〜3倍はあるので、そんな変な事する必要はありません。変な事を言う暇あるなら、足を動かしてください」
カズヤの復讐はアッサリと崩れた。
カズヤが踏んでる間、ミカーヤはどこから出したのか、椅子に座り紅茶を嗜み始めた。
「クソぉ、変な事って自覚あるなら他の案考えろよなぁ。なんで俺がこんな事―――」
「イテッ」
「――ん? ミカーヤお前今なんか言ったか?」
「何も言ってませんよ?あ、そこの潰れてないです」
ミカーヤに指さされた方を見てみると、傷一つ付いてない、キレイな丸いうんこがあった。
「おかしいなぁ、何か聞こえたんだ―――」
「いてっ」
「――ん? ミカーヤお前、やっぱりなんかブツブツ言ってるだろ」
「言ってませんって! 後そこのまた潰れてないですよ! ちゃんと踏み潰して!」
うんこを踏み潰し精神が削れているのか、カズヤは幻聴が聞こえ始め潰すことすらままならなくなっていた。
「ちゃんとやったんだけどなぁ?せーっの」
次こそはと足に力を込め確実にうんこを踏み抜いた。
だがうんこに靴が沈むだけで、爆散はしなかった。
「痛ぇぇぇ」
踏みつけた瞬間、うんこは声を発しながら空高く舞い上がった。
突然の事にカズヤは尻餅をつき、ミカーヤは紅茶をこぼし、放心していた。
「ウワァァァァ! うんこが喋ったァァァ! ミカーヤお前こんな事させたから化けて出たぞバカ野郎!」
「踏みつけたのカズヤさんなんだから、カズヤさんのせいですよ! ちゃんと謝って!」
二人はうんこが叫んでる状況に理解ができず腰を抜かした。
そうしてる間も、うんこは身をよじり痛みに耐えていた。
「てめぇら! 良くも踏んづけてくれたなぁ! 覚悟しろ!」
うんこは激怒しながら二人に襲いかかってきた。
「ミカーヤ戦闘だよ戦闘! 強いなら闘えよ!」
「触れないですよ! あ、思い出した! カズヤさん勇者のスキルに『逃さぬ手《ハント·ハンド》』っていうスキルあるから、使ってください! スキルは魔力いりませんし空中で掴めるんで! お願いします!」
「そういう事なら任せろ!」
『逃さぬ手《ハント·ハンド》!!!』
手をかざしうんこに向けてスキルを唱えると、うんこは空中で固まったように動かなくなった。
「ナイスです!カズヤさん!後は自由に動かせるので木に叩きつけてください!」
指示を無視してカズヤはミカーヤの方を向き、投球の構えを取った。
「何してるんですかカズヤさん! 木は右ですよ! ちょっ、冗談はやめてください!」
「うぉら! 元野球部の強肩だぁぁぁぁぁ!」
カズヤはミカーヤの顔面にうんこをフルスイングでぶつけた。
パァァン
うんこは一直線に顔に飛んでいき、着弾と同時に爆散した。
「「アッギャァァァァァァァ!」」
2つの悲鳴が辺を駆け巡った。
「――カズヤさん最低です! 私のビューティフルな顔が汚物まみれに! いい年したおじさんが何してるんですか」
ぶつけられて爆散したうんこを払い取りながら、ミカーヤはカズヤにブチ切れた。
カズヤはミカーヤに復讐できた事で勝ち誇り、高らかに笑っていた。
「うるせぇ! だいたいお前、俺に対しての扱いひどすぎだぞ、ほとんど始めましてなのに! 後俺は神に顔をおっさんにされただけで21歳だ!」
「えっっ………」
ミカーヤの動きがピタリと止まった。
「そこまで驚くことかよ!」
「違います、カズヤさん! 後ろ! 爆散したうんこが一つに……」
急いで振り返ってみると散り散りになったうんこがまた、一つの塊になっていた。
ウネウネと蠢き纏まっていくうんこに、二人は抱き合いながら恐怖した。
「お前ら! いきなり人様ふんどいてモンスター呼ばわりしたあげく、投げるとか何考えてんだ!」
「お前モンスターじゃねえの!? てか何が人だよ! うんこだろ!」
うんこの発言にカズヤは戸惑っていた。
だが戦う意思は見られないので、カズヤは警戒を解いて話をすることにした。
「元人だよ! 妙にチャラい神に頼んで異世界転移したら、うんこにされたんだよ!」
心当たりがありすぎる人物の話を聞いてカズヤは納得した。
同情して肩に手を置こうとしたが、うんこには肩がなかった。
というか、肩があってもうんこを触るのはまずい気がした。
「お前も苦労したのか……そうとも知らずにごめんな……お前も被害者だったのな……」
(こいつうんこって事は嫌われ者の才能とかあったんだろうな。優しくしてあげないと)
いきなりな態度が変わったカズヤに驚いたが、うんこは冷静になり疑問を放った。
「俺も襲ったから別にその件はいいけどよ、お前らこんなところで、うんこ踏み潰して何してたんだ?」
カズヤは異世界に来てからの話をミカーヤの悪行を誇張しながら説明した。
「ふーん、それほんとにレベルあがんの? 何個踏んでどれぐらい上がったよ」
うんこの言葉にカズヤも思い出しミカーヤに問い詰めるため振り向くと、ミカーヤはいつの間にか椅子とコップを片付けていた。
どこに消えたのか。
「あはは〜……それがですね。30個ほど踏んでカズヤさんに経験値は、一つとして集まってません」
段々と近づいてくるカズヤに、ミカーヤは目を泳がせながら逃げる準備をしていた。
「てめぇぇぇぇぇぇ! やっぱり嘘じゃねえかァァァ! 暇だからって刺激求めて、てきとう抜かしたのか! 俺の靴汚した時間は何だったんだよ!!!!」
逃げようとしたが、カズヤに捕まったミカーヤは、手を上下に振りながら叫んだ。
「落ち着いてください、カズヤさん。違うんですよホントは刺激とかじゃなくて、カズヤさんの仲間になりたくて適当なこと言っちゃったんです! なんでもいいから、お互い成立すれば仲間になれると思って!」
「うるせえええ! それに俺は了承してねえ、強制的にやらされてんだよ。」
ミカーヤに今にも襲いかかろうとしてるカズヤに、うんこは体の一部を放出して止めた。
ついでに、ミカーヤも巻き添えでうんこを食らった。
「落ち着けよ兄弟ロボットとはいえ女の子だろ! そんなにレベル上げたいなら、俺が教えてやるよ」
「お前ほんとだろうな! クッサ! また嘘とかだったら俺お前ら潰すぞ! クッサ!」
「安心しろ、俺は既にレベルをあげれてる。そこのミカーヤって子に、見てもらえばわかるだろ?」
カズヤはミカーヤに目で合図を送りミカーヤはコクリとうなずくと、目が青く光り始めてうんこを睨んだ。
〘ウンコ 職業ウンコ レベル28〙
「す、すごい! この人名前も職業もウンコだ!」
「うるせえよ!気にしてんだから触れんな! で、レベルとかはどうなんだよ!」
「レベルは28です! ステータスでいえば私の5倍はあります!」
「ミカーヤの5倍!?」
強さに驚きカズヤはウンコの方を見てみると、勝ち誇ったウンコがドヤ顔をしていた。
いや、正確には顔などないのだが、恐らくドヤ顔しているだろう立ち振舞をしていた。
カズヤはウンコに土下座しながら突っ込んだ。
「俺の仲間に入ってくれないか! 即戦力が必要なんだ!」
「俺もそろそろ孤独から逃れたいって、思ってたところだ。二人も増えてくれるなら大歓迎だぜ。なら早速レベル上げに行くか。」
カズヤとミカーヤはウンコについて行き森の奥へと入った。
移動中ずっと黙るのも暇なので、カズヤは何気ない話で暇をつぶしていた。
「なぁ、ウンコ。お前口も目も鼻もないのに生活できるのか?」
「見えないだけで存在はする。分かりにくいなら顔作ってやるよ。」
そう言うと簡易的な顔がウンコに浮かび上がってきた。
気持ち悪く思い、カズヤはウンコと距離を取った。
「あいつ転がって歩いてるけど目回らないのかな?」
「三半規管とかなさそうですし、回らないんじゃないですか?」
「そうなのかな? てか勇者のスキルって他にないの?」
「ありますよ。そもそも勇者は全ジョブのスキルを使えます」
「まじで!? すげえじゃん、勇者最強じゃん! 後で教えて!」
「ついたぞ、話はもうやめだ! ここからは用心しろ!」
ウンコに連れられた森の中はそこら中罠でいっぱいだった、木にはロープが垂れ下がり草には棘が隠れていた。
「まぁ、結論から言うと罠だな。昼間は弱いモンスターしかいないからな、それぐらいならこの罠で倒せるぜ! とりあえずは木に登り高いところから、罠にかかるのを待つんだよ」
3人は木の上に登りモンスターが罠にかかるのを待っていた。
5分ほど待っていたらパキパキと森の奥から、枝を折り進む音が聞こえてきた。
「来たぞ、息を潜めろ! バレたら作戦はおしまいだ!」
15M…10M…とモンスターが視認できるほどの距離まで近づきその全貌が見えた。そこには6M強のゴリラの様なモンスターがいた。
「「そんなはず………」」
ミカーヤとウンコはモンスターを見て震えながら呟いた。
「なにか知ってるのか? ミカーヤあいつは何なんだ、強いのか?」
「あのモンスターの名前は死霊のゴリラ《デーモンキー》です。夜行性で滅多な事がないと昼間に起きないはずです。それにあいつは自分のテリトリーから出ないんですよ。 そして強さは今のウンコさんの2倍ほどです」
「あぁ、しかもそのテリトリーには、やつのうんこが塗りたくられていて激臭がする。この付近にはうんこはつけられてなかったはず。」
二人は震えながら説明していたが、カズヤには何かが引っかかいた。
「滅多なこと……激臭のうんこ………二人の叫び声とお前の臭いが原因じゃねえか!」
カズヤのツッコミで3人はデーモンキーに見つかった。
3人に気づいたデーモンキーは、物凄い速度で迫ってきた。
「お前何叫んでんだよ! バレたじゃん!」
「どうするんですか! あいつからは逃げ切れないから戦うしかないですよ!」
「みんなごめん!」