格の違い
カズヤはツガと手を組み、合図を待った。
「初め!」
オコナの合図と共にカズヤは力いっぱい腕を倒した。
クラスアップによりオークすら軽くあしらえるようになったカズヤの剛腕の前では、華奢なツガの腕はテーブルへとなすすべもなく叩き伏せられた……
はずだった。
(!? ビクともしねえ! 何がどうなってるんだ)
「割とやるなカズヤ、見直したぜ。カナお嬢様を救ってくれてありがとな。」
ツガは力む様子もなくカズヤの腕をテーブルに叩きつけた。
カズヤは凄まじい力に倒された反動で、右方向に体が数M吹き飛ばされた。
「なにしてるんだツガ! 客人だぞ」
「カズヤの耐久力はオリセのおかげで熟知してます、あの程度では傷一つつかないのでご安心を。さぁ次はどっちだ」
ツガは再びテーブルに肘を立て、手招きをした。
「次は私が行きます、カズヤさんの仇は私が取りますよ。確かスキル使ってよかったんですよね」
「……あぁ」
『スキル魔法 エネルギーコントロール』
ミカーヤは体から稲妻を発しながらテーブルに近づいた。
そして自分の分の台を用意すると、ツガと向き合いテーブルに肘を立てた。
「ビリビリするので気をつけてくださいね」
「大丈夫だ、本気で来い。」
「初め!!!」
ドッッ
ミカーヤが力を入れた途端衝撃に耐えきれなくなった、床が陥没し始めた。
稲妻の凄まじい光と轟音で2人の戦いは部外者にははっきりと目視できないレベルにまで達していた。
「んぎぎぎぎ! なんでピクリとも動かないんですかぁ!」
「私も割と踏ん張ってるよ、凄いなミカーヤ。そして今わかったけど、お風呂での爆音と壁の件お前だったんだな。お仕置きが必要だ」
またもや力む様子もなくミカーヤの腕をテーブルに叩きつけた。
しかし今度は叩きつけたあとも離さず更に押し込んだ。
衝撃の反動によりミカーヤは地面へとめり込んでしまった。
「ラスト」
スイッチが入ったのかいつもの優しいツガは無く、2人には目もくれずシュウキに手招きをした。
(パワー系の2人がやられたのに勝てるわけねえ!)
「シュウキ! お前の友情はそんなものか! 早くかかってこい」
怖気づいていたシュウキはツガの叱咤で我に返った。
「あらら、ツガちゃん完璧に熱中してる」
この先自分に必ず訪れる惨状に覚悟を決めて、シュウキはツガの手をつかんだ。
「ん? お前力ミカーヤより弱くないか?」
「俺魔法使いで後衛なんですよ。」
「なるほど、私と一緒だな」
「は?」
ツガの言葉に理解が及ばず混乱していると、視界の端でオコナが手を上げるのが見えた。
(始まる! 死ぬ前に遺言を言わなきゃ)
「ツガ先輩」
「ん? なんだ」
「俺、ツガ先輩の後輩で幸せでした。短い間でしたが、この一週間は忘れられない思い出です。ありがとうございました」
これから力比べが始まるというのにシュウキの顔は力む様子もなく、これから死にゆく命を受け入れたような優しい笑顔をしていた。
唐突に向けられた感謝の言葉と優しい笑顔で、ツガの心は数多の感情が飛び交った。
そして遥か彼方に飛んだツガの意識を引き戻したのは、始まりに備えて強く握ったシュウキの手であった。
その瞬間ツガの混ざりあった心は一つの思考で埋まった。
(あ……好き)
「はじめ!」
「うおおおお! ええい、ままよ!!」
パタン
「「「え?」」」
シュウキの気合とは裏腹に決着はあっけなくついた。
シュウキにされるがままにテーブルに叩きつけられたツガの手は、スルスルと蛇のように床に流れ落ちていった。
「か、勝ったぞぉぉ!」
「ツガちゃぁん!」
オコナはまさかの敗北を喫したツガに駆けつけて抱きかかえた。
「熱入ってたのになんで急に後輩病発動したの!」
「オコナ……可愛い後輩持つってやっぱりいいな……」
言い終わった途端ツガは事切れた。
「仇はうつよ」
ツガの意思を継いだオコナは髪を括り始め、いつものポニーテールになると、テーブルに肘を付けた。
それに応えるよにシュウキも対峙して手を握った。
「いくよオコナちゃん、シュウキちゃん。はじめ!」
(ツガ先輩に勝てた俺は恐らく最強! オコナ先輩も余裕だぜ)
「うおおおおおお!」
「えい!」
パタン
シュウキは自分よりも遥かに小柄な女の子にいとも簡単に倒された。
あまりの力の弱さに倒したオコナもしばらく困惑していた。
1回戦2回戦のバトルに比べ、シュウキの戦いは2回連続であっけない終わりを迎えた。
「勝負あり! 勝者メイドチーム!」




