宴
主人に連れられて食堂に向かうと、既にいくつかの料理が運ばれてきていた。
3人は好きな席に座って待っていると、忙しそうにメイド達が料理を運んでいた。
「あの、俺達も手伝いましょうか?」
「君たちは今客人として扱っているんだ、メイドに戻る必要はない」
そうは言われたものの、3人には一週間かけて染みついたメイド魂がまだ残っていた。
妙にソワソワして落ち着かない3人を見ると、主人は困ったように笑いながら3人に語りかけた。
「分かった、もう見てられないよ。あまり客人には言いたくないが、みんなを手伝ってきてくれ」
「「「ありがとうございます!」」」
その言葉を聞くと3人は直様椅子を立ち上がり、メイド服を正しながら厨房に向かった。
「やれやれ、困った客人だ」
主人は頭を抱えながら笑っていると、着替えを済ませたカナとキクラが食堂にやってきた。
「おぉ、似合ってるよカナ。凄く可愛い」
「パパありがとう! ツガちゃんっている?」
カナは主人に手を振りながら食堂を見渡して、ツガを探していた。
「そのうち料理を運んでくるんじゃないかしら?」
「あ! 来た!」
噂をすればなんとやら、ちょうど料理を運びに来たツガが忙しそうに駆け足で向かってきた。
「ツガちゃん遊ぼ!」
「お嬢様お遊びですか? 分かりました」
カナに呼ばれたツガはエプロンを外して畳みながら、カナの元へ向かった。
「おまたせしました先輩方!」
「私達最後の仕事、ご一緒させてください」
「「「「来ちゃったの?!」」」」
エプロンをつけて準備万端の三人は、厨房の開いてる場所を探して料理に参加した。
「ね、ねぇカズヤちゃん。実は男の子って嘘よね?」
カズヤが食材を切っていると、モジモジしながらオリセが近づいてきた。
「ホントですよ」
「そ、そんな……」
再度現実を告げられるとオリセは気づかなかったことに絶望し、持ち場に戻っていった。
「オコナ先輩! ツガ先輩どこにいるか知りません?」
シュウキはお世話になったツガと最後の作業を共にしたかったが、どこを探してもツガは見当たらず、オコナに頼った。
「さっき料理運びに行ったんだけど、まだ戻ってきてないね……多分お嬢様に捕まったね! お嬢様身長同じぐらいの、ツガちゃん大好きだからね! 同年代っぽいのが、好きな理由だと思う!」
ツガがいないことがわかるとシュウキは持ち場に戻っていった。
そして15分程で全ての料理が完成し、最後の料理を運び終えたのを確認すると。
全員が席についた。
「今日は良い日だ! 今日ぐらいはメイドの君達も仕事を休み、ともにパーティーを楽しもうではないか!」
娘が助かった今日は無礼講。
メイド達もお酒を解禁して宴を存分に楽しんでいた。
「それにしても君良い筋肉してるね、さすが冒険者だ」
「いやあ、それほどでもないですよ」
お酒が回って既に顔が真っ赤な主人はカズヤの筋肉を触りながら話し始めた。
「どれ。家のメイドにも何人か手練れがいる、力比べをしてみないか?」
「いいですけど、俺等強いんで圧勝だと思いますよ」
主人が顎で指した方を向くと、メイド最長の3人がいた。
「ジョブ持ち三人来てくれ」
主人の掛け声を聞きつけ3人は迅速にカズヤの元に集まった。
「いかがなさいましたか御主人様」
「冒険者の彼らと君達で力比べをしてみてほしいんだ」
主人から頼まれた3人は丸いテーブルを用意して、リングを建てつけると腕相撲の場を作った。
「腕相撲か。いいんすか先輩、こっちパワー系結構いますよ。シュウキ! ミカーヤ!」
カズヤに呼ばれ、遊んでいたシュウキとミカーヤは5人のもとに駆けつけた。
「ルールは簡単だ。スキルの使用あり、腕相撲で相手の腕を倒したほうが勝ち」
プライドを掛けた負けられない戦いが始まった。
「まず誰からいくよ」
「俺は絶対オリセ先輩はやだ」
「俺もパス」
「私も」
ドンッ
3人が順番で揉めているとツガがテーブルに肘を立てて手招きをした。
「順番なんてどうでもいいだろ。オコナは力がないし、オリセが力んでうっかりスキル使うと誰か死ぬ。必然的に私1人対お前達3人だ。私はスキルを使わないから本気で来い」
挑発されたカズヤは自分の筋肉が泣く声が聞こえ、思わず一歩前に出た。
テーブルに背が届かず台を使うような小柄な女に自分の筋肉が舐められたのだ。
「ここで下がっては男が廃る。カズヤ行きます」




