サンドバッグ
「ここいつも暗いな、シュウキ灯り頼む」
3人はできるだけ壁を背に、ゆっくりと電気まで手を伸ばし灯りをつけた。
灯りをつけると、前回のようにベッドの上に娘がポツンと座っていた。
『シャドーノイズ』
いつ襲われてもいいようにカズヤはスキルを使いながら、娘に近づいていった。
だがいつまで立っても音は鳴らず、夜の森のように静まり返っていた。
「あ、あの……新しいメイドさんですの?」
娘はカズヤを見て、怯えた目をしながら問いかけてきた。
「今は大丈夫みたいだ、ミカーヤ俺と交代。」
カズヤに呼ばれたミカーヤは朝食を魔法で取り出し、笑顔で娘に近づいた。
「今日一日だけ担当のミカーヤです、後ろの美人さんがシュウキさんで、ヤバそうな人がカズヤさんです。」
「そうですのね! てっきりあの見た目ですし、不審者かと。女性を見た目で判断するのは失礼でしたわ」
年齢が同じくらいのミカーヤが来たことで警戒心を解き、娘は声を高くしてカズヤをチラチラ見ながら話した。
「朝食を持ってきたんですけど、食べれそうですか?」
「ありがとう、いただきますわ」
さすが貴族の娘。子供ながら言葉遣いがしっかりしており、まさに模範のようなマナーで食事を上品に食べ終えた。
娘からはその一連の流れで、見た目にそぐわぬ貫禄が感じ取れた。
食べ終わったのを確認すると、ミカーヤは収納魔法に片付けた。
食事が終わると娘は再度カズヤの方をチラチラ見ながら、恥ずかしそうに申し上げた。
「恥ずかしながらカズヤさん、筋肉を触らせていただけませんか?」
「私ですか? わかりました」
「ありがとうございます。私母とは真逆で、カッコイイ物に目がなくて……あ、服は脱いでください」
カズヤは言われた通りメイド服を脱ぎながら娘に近づき、触りやすいようにベッドに腰を掛けた。
「うわぁ凄い硬さですね! 肉厚も凄くて鎧みたいで、カッコイイです! ん? これは?」
娘はペタペタと筋肉を触りながら、お腹についているあるものに気がついた。
御札だ。
「あ〜これは〜」
「剥がしてもいいですか?」
カズヤはノイズがなる気配がない事を確認すると、一応予備の御札をポケットから取り出した。
「少しなら大丈夫です」
「やった! では、失礼して……わぁ! これはまたすごい腹斜筋ですね! 岩石み……」
パチッ
急遽なんの前触れもなく灯りが消えた。
ジジジジジジジジ
「ッッ! シュウキ! もう一回つけろ! 悲鳴が上がってなかった!」
カズヤは消灯と同時にけたたましくなるノイズに、耳を抑えながらも冷静に指示を出した。
急いで灯りをつけ部屋が照らされるのを待つと、ベッドには意識を失った娘が横たわっていた。
「クソ、やっぱりだ。僧侶から聞いたが幽霊がその身から抜ける瞬間は、気絶するらしい。まだ近くにいるぞ」
『ソウル』
スキルを発動して霊道を探ると、可視化された霊道は娘からカズヤの胸に向かっていた。
「ミカーヤ道具!」
シュウキはミカーヤに指示を出しながら御札を取り出すと、カズヤのおでこに貼り付け、カズヤを羽交い締めした。
何かを察したカズヤは暴れようとしたが、一歩遅く鈴を握ったミカーヤが突っ込んできた。
「オラァッ! フン! フン!」
「もっとだもっと! 殺すきでいけ!」
「「ウグァァァァ」」
カズヤを殴るとカズヤからは2つのうめき声が聞こえてきた。
効いてることが分かるとミカーヤはもう片方の手に数珠をはめ、両手でラッシュを始めた。
「オリャァァァァ!」
「いけるいける! もう少し!」
あと少しで殺せそうなところ、シュウキは振りほどかれミカーヤは吹き飛ばされてしまった。
2人から距離取ると幽霊は御札を無理やり剥がし、カズヤの体から出てきた。
「お前ら少しは躊躇しろ! 戸惑え! あとミカーヤそれ使い方違うから! 幽霊殴れるってだけで、生身なら意味ない! めっちゃ痛いからなそれ!」
「当初の作戦通りに始めただけだろ! お前も聞いてただろあの作戦!」
「そうですよ! それに蹲ってる暇ありませんよ、ここからが本当の勝負です」