電気
「なにか言ったらどうかね君達」
主人は槍を構えてできるだけ隙を見せないように、ジリジリとにじりよってきた。
「ど、どうするみんな」
「何慌ててるんですかカズヤさん、ここは私に任せてください」
慌てふためくカズヤに対し、ミカーヤは妙に落ち着いていた。
そして道具をすべてその場に置き、主人の方にゆっくりと歩いていった。
『エネルギーコントロール』
ミカーヤの体がバチバチと音を上げながら光ると、一瞬で消えてしまった。
どこに行ったのかと探すと、いつの間にかミカーヤは主人の真後ろに回り込んでいた。
ミカーヤは息を潜め主人が気づく前にうなじに狙いを定め、手刀を叩き込んだ。
「ッッッ! いつの間に後ろに、やはり賊であったか! よくも純粋なキクラを騙してくれた!」
だがミカーヤの予想に反して、主人はうなじを抑えながら距離を取っただけであった。
「あ、あれ? 本で見たのと違う」
「ミカーヤ電気使え! 電気!」
シュウキのアドバイス通りにミカーヤは再度背後を取ると、うなじに向かって両手を翳し、スキルを発動させた。
『サンダーチェイン』
「馬鹿! やめろお前ら!」
カズヤは焦って止めようとしたが時既に遅し。
首に電気が直撃した主人は、声も上げず音もなく倒れてしまった。
カズヤは冷や汗かきながら主人にかけより、手首や首を念入りに確認し、胸や口元に耳を近づけていた。
そして一通り終ると顔を上げ。
「ご臨終です……」
「えっ……」
「ご主人死んじゃってんじゃん、何してんの! 幽霊退治するってのに幽霊増やしてどうするんだよ!」
「そ、そんな」
「お前ら知識もなしにやるからだよ! あんな電気首元に食らったら、しんじゃうに決まってるじゃん!」
2人は顔面蒼白で慌てふためくこともせず、立ちすくんでいた。
「ミカーヤ早く! ボルトウェーブ胸の上において!」
「わ、わかりました」
ミカーヤは言われるがままにスキルを発動すると、主人の胸にめがけ放った。
電気が駆け巡ると主人の体は跳ねて、しばらくすると目を開いた。
「ご主人大丈夫ですか?」
「うっ……貴様らなん……」
バキッ
主人の言葉を聞くや否や顔面に膝蹴りを放った。
そして主人はまたしても息を引き取った。
「よし、死んだな。ミカーヤもう一度してくれ」
「おいぃぃぃぃ!! 何してんだお前! せっかく生き返ったのに、なんでまた殺してんの!」
「記憶残ってたから仕方ない、この際直前の記憶無くすまで続けるぞ。傷は俺のスキルで治す」
こうしてカズヤ達は記憶がなくなるまでに、14回殺害し14回生き返らせた。
主人は気絶していたことをカズヤたちに聞くと、前後の記憶を失った事に顔をしかめながら食堂に向かった。
「なんとかなったな」
「あぁ、俺たち犯罪者になったけどな」
「つべこべ言うな! 元はお前が電気使わせたからだろ」
3人は今度こそ邪魔者が来ないことを確認すると、道具を再度用意して娘の部屋のドアを開けた。