阿鼻叫喚
「み、みんな落ち着け……だ、大丈夫か新入り?」
「……」
どんなに焦っても解決策を見出すツガも、今回ばかりは頭が働かなかった。目の前で一つ死体が出来上がったのだから当たり前だろう。
「ちょ、先輩! カズヤどうなったんですかあれ! 私もああなるんですか!? 嫌ですよ! 絶対に嫌だ! うわぁぁぁ嫌だァァァァ」
「落ち着け新入り! 暴れたら壁が崩れる!」
カズヤの死体を見て不安が爆発したシュウキは、必死にもがいて壁から抜け出そうとしていた。
「新入り落ち着くんだ! そしてオリセはいつまでそこに立ってる! 早くどけろ!」
「怖くて固まっちゃった……」
暴れているシュウキを宥めようとしても、オリセが邪魔で誰もシュウキを止めれなかった。
メイド達はまずオリセをどけようと肩に腕を回し、みんなで持ち上げようとしたその時。
ドゴォォォォォン
凄まじい轟音が壁の先から響いてきた。
メイド達はその音に驚き、本能的にその場から離れようと這うように逃げ惑った。
「みんな助けてよぉ〜! 私動けないよぉ」
「嫌だァァ! 先輩見捨てないで! 私こんなところで死にたくない!」
「すまん三人共耐えてくれ! こっちもオコナを死守するから安心して瀕死になってくれ!!」
みんなはオコナを囲うように集まり壁から離れた。
そして―――
「二人の服持って風呂場の壁見に行けってどういうことなんだろう? とりあえず一周するとしてなにかあるのかな?」
遡ること1分前。
ミカーヤはオコナに頼まれて二人の服を持ち、メイド館の外を走っていた。
「ここを曲がったら最後一周ですね。結局何なんでしょう? もしかしたらバレて壁から外に追い出されたりして! なーんて。壁が壊れるわけ……」
冗談を飛ばしながら曲がり角を曲がると、そこには壁から生えた4本の足があった。
困惑しながらも裸なのを確認すると、ミカーヤは急いで服を着せ始めた。
「何がどうしてこうなった! とりあえず時間かかるシュウキさんから履かせて、その次カズヤさんです!」
焦りながらも二人と過ごすうちに緊急事態に慣れたミカーヤは、素早い動きで瞬く間にシュウキにズボンと靴下を履かせた。
「次はカズヤさん! まずは靴下っと……」
ボフン
「うわっびっくりした! カズヤさん靴下でもバニーになるのか。一応ズボンも履かせておこ……ヘブゥ!」
ズボンを足に通して腰まであげようとしたとき、いきなりカズヤの足が曲げられ、ミカーヤは顎を蹴り上げられ宙に舞った。
鯱になった痛みで筋肉が痙攣し硬直したことにより、凄まじい威力の蹴りが放たれてしまったのだ。
「よくもやってくれましたね変態が! 恩を仇で返した落とし前取ってもらいますよ!」
『エネルギーコントロール』
ミカーヤはロボット時代の戦闘スキル魔法を使用し、身体能力を格段に上げた。
そして足に力を溜めて後方に飛び、後ろにあった木を踏み台に更に加速した。
「狙うはカズヤさんの急所!!!」
ドゴォォォォォン
―――そして皆が離れた後に先程よりでかい轟音が響き渡った。
「うわァァァァァァァァァ」
バキッ
その瞬間カズヤは凄まじい痛みで目を覚まし、壁にハマったまま蹲った。
蹲まる時障害となる壁はカズヤの鋼鉄の膝の前では意味をなさなかった。
「うぎゃぁぁ」
「オリセちゃァァァァん」
そしてカズヤに蹴り飛ばされた壁は、必然的に目の前にいるオリセの背中に直撃してオリセはふっ飛ばされていった。
「た、助かった?」
自分だけ無傷な事にシュウキは安堵したが、それは束の間の休息だった。
壁の一部がカズヤに蹴り飛ばされた事により、カズヤの体重を支える耐久力を失っていた。
ガシャン
音と共に壁は崩れ、シュウキの腹めがけてカズヤの膝が降ってきた。
バキバキベキ
「ガフッッ!」
嫌な音が響いた後、シュウキはゆっくりと意識を失った。