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初めての異世界転移

 物語の始まりも終わりも大層な期待を寄せられるが、どれもつまらないものがほとんどだ。

それは俺の人生にも言えるだろう。


 自分で言うのもなんだが俺はそこそこいい暮らしをしていた、独身だったが家族とも呼べるハムスター一匹と幸せに過ごしていた。

 そんなある日、会社の上司に誘われた飲み屋で、上司に急かされ急アルで死んでしまったのだ。


 死んだ後には輝かしい転生ライフが待っている。

そんなものは死ぬのが怖い奴らがすがっている藁と考えていた、






 だが今俺の目の前には神としか言いようがない風貌の男が立っていた。


俺はその老人に恐る恐る今ある状況を聞き出した。


「な…なぁ!あんた違ってたらすまねえがあんた、もしかしたら神っていうやつなのか?


「ん? そうじゃがどうかした?」


 神とやらの威厳が微塵も感じない喋り方だが、どうやら神であっていたようだ。

 神は俺を見向きもせずに、書類と向き合い淡々と筆を走らせていた。

 こんな奴が俺を導いてくれるのかと思うと目眩がしてきた。


「あんたが神だったら聞きたいんだが。俺ってもしかして異世界転生ってやつをできるのか!?」


 その問いかけに神は俺の頭上を睨み、目が青く光り始め、何かを読むように目を動かしていた。

 


「あ~お前は無理だわ。あのね、たま〜にいるのよ、お前みたいに異世界連れてってー系人間が。でもねぇ……生物にはルールがあって一つの生命は13回までしか生き返れないようになってるの。それまでにお願いしたなら別に聞くけど、お前は13回目の死だからだから無理なの」


「じゃ、じゃあ13回過ぎた俺の魂はどうなるんだ?」


 内心では理解していた、だが信じたくなく恐る恐る神に問いかけた。

 俺の問いかけに神はニヤリと不気味な笑みを浮かべながら答えた。


「魂の消滅だね! どんどん作られてるのに同じ魂あったら、増える一方ですぐ星滅ぶでしょ? それをなくす為の消滅」


 やはり恐れていた事を言われると、不意打ちで来るよりも応えるものがあった。


「冗談じゃない! 13回目だろうと俺の記憶では、まだ一回目なんだ消されてたまるか!」


 俺は魂の消滅を防ぐべく、少ない頭をフル回転させた。

 一ついい案を思いついたが問題がある、俺の話術は神を欺けるのか?

 顔色や言葉の節を見逃さないよう、細心の注意をして、神に交渉を仕掛けた。


「な、なぁ! あんた神なんだしずっと生きてて暇だろ? だからさぁ、俺を異世界転生させたらあんたが見たことも無いようなおもしれぇ物語を見せてやるよ!」


 俺の交渉に少し興味が向いたのか、神は乗り気に話してきた。

だが、こんな時も気を抜いてはだめだ。

 交渉というのはほんの少し取りこぼすだけで失敗をしてしまう、失敗した場合は……消滅ただひとつ。


「そういう事を言うやつは何度も見てきた。次は何なんだ? チートか? 努力か? モンスターか? 何を見せてくれる」


引っかかりやがった。

 話しに乗ったなら俺の独壇場、いつ俺はこの口車に乗せて成り上がってきたんだ。

 驚いたものだ。自分の命がかかっている時、人は頭の回転が飛躍的に上昇する。

 いつもは念入りにテストして、人の心を掴むはずが、今はたった一瞬で話はできあがった。


「チート? 人のおかげで手に入れたもので、デカい顔をする気はねえ! 努力なんて地道なもの面白くもねえだろ! 俺は今までの物語の型を破る!今までの物語すべてが、俺を魅せるためのプロローグだ! ここに一つ全てを塗り替える、型破りの勇者を生み出してみないか?」


 少し苦しくはあったが俺の話に神は興味津々だった。

次の神の一手、それで全ては決まる。

 所詮どこまで頑張っても、結局は決めるのは人間ではない、神だ。


「全知全能の神すらも喜ばす型破りか…その意気込み気に入った! お前に賭けることにしようか!」


 どうやら上手く行ったようだ、自分の命を拾い上げた安堵は、生涯の娯楽や喜びを凌駕した。

 神を上手く口説いた俺はそのまま異世界行きのチップを手に入れた。


「じゃあ、話もまとまった事だしここから素性決めの話始めるぞ」


「そんなものがあるのか!」


 ことが始まれば俺達は遠足前の子供のようにはしゃぎながら話を進めた。

 神なんか、いつの間にか書類なんてほったらかして、俺に興味津々だ。

 これで、もしもの時も見捨てられることはないだろう。


「顔は?」

「イケメン」

「だよね。強さは?」

「初期モンスターに勝てるぐらい」

「よしっと」


 面接とは名ばかりで数回の質問でステータス決めは終わった。

 神は指先をなぞり、宙に青い光でできたタイルを創り、何かを入力していた。


「ちなみに魔法使いとか戦士とかってのはあるのか?」


「それは君自身の才能次第。じゃ、全て終わったから異世界転生いってらっしゃ~い」


男は意識を失い、青い光に包まれて消えていった。

 男が目を覚ますとそこは、先程の神殿の面影もない、夕日の差し込んだ幻想的な草原にいた。


「うー、頭いってぇ。異世界転生って結構体にダメージ来るのね……さて、異世界転生ができた事だし今後の目標を考えるか。やっぱり魔王討伐か? それなら仲間も必要だし、自分も強くならなきゃな……」


 男が悩んでるうちに目の前には、小さく愛くるしい生き物がいた。

 男はいきなり現れたモンスターに戸惑っていたが、先程神と交わした約束を思い出した。

 目の前にいるモンスターは、見るからに初期モンスターとしか言いようのない容姿をしていた。


「お、早速お出ましか。最初の雑魚キャラスライムくん! 俺の経験値になっておくれ」


 男は闘争心を向き出し、拳を作り力を込め渾身の一撃を叩き込んだ。

 だが男の一撃は、スライムの体に沈み込み跳ね返された。

 スライムはダメージを受けた様子もなく平然としていた。

 


「は? 本気で殴ったのに、スライム全く動じてねえじゃん。初期キャラ倒せるぐらいじゃねえの!? 武器ないと無理とか?」


 男は考えに耽けていたがスライムにそれを待つ道理はない。スライムの半身は人形に変態し、男の脇腹に渾身の右フックを打ち込んだ。

 スライムの一撃で男は宙を舞い、受け身も取れず、地面とキスをした。

 ヘビィ級ボクサーの一撃を食らったように、男は何もできずに地面にうずくまった。


「待て待て待て待て待ておかしいだろ! まずスライムが変形するなんて聞いたことないぞ! 後俺のステータスなんか弱すぎね? 逃げて立て直さなきゃ……」


 男はスライムにすら勝てず、四つん這いになりながら無様に逃げ切った。

 スライムは追ってくる様子がない、驚異にすらならない男に興味はないようだ。

 3分ほど逃げ続けようやく一息つき、男は改めてステータスを確認した。


「何かがおかしい…あのジジイまさか俺の言うこと全部無視したのか? とりあえずはステータス確認だ」


 男は神がやっていたように、念じながら指で宙をなぞってみると青い板が現れた。

 男は板にしがみつき、食いつくように書かれている文字を読んだ。


『確認すると思って記入しといたけど、君のステータス農民と同じです。本気で策をねって死闘すれば、ギリギリ最弱モンスターに勝てます。型破りを見せてくれるらしいしこれでも頑張ってね。ps顔は約束どおりだよ』


 男は神に対する怒りは抑えて、顔だけでも守ってくれた事に安堵して顔の確認に向かった。

 勘で平原を数十分間歩くと村を発見した、男は顔を見るべく村に入って厠へ急いだ、だが鏡には期待と違うものがうつっていた。


「あんのジジィ! イケメンはイケメンでもイケオジじゃねえか! 普通イケメンなら甘い顔だろ! イケオジとかざっけんなよ!」


 男は怒りに燃えながら顔を再度確認すると、頬に文字が書かれてることに気づいた。


『戸籍は作っといた、名前はイルバヤタ·k·カズヤだよ。名前に君の本名を入れておいた。』


カズヤは神の粋な計らいに少し喜んだ。

 だがよく見てみると、頬に書かれているの文字は、ステータスのように青い魔法の文字ではなく、黒いペンで書かれていた。


「あのジジイ嬉しい事してくれるじゃねえか。でも墨で書かれてるのゆるせねえ!」


 カズヤは神に対しての怒りを噴火させながら、今夜は村の宿に泊まり眠った。

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― 新着の感想 ―
[良い点] まず、型破りという名に恥じない主人公くんに好感が持てましたw 神様に向かって、「暇なんだろ?」とかw 僕こういう小説大好きで面白かったので早速ブクマと星マークポチッちゃいました! これか…
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