メイド一同心を込めて
「新入り大丈夫か? それにしても深く突き刺さったな、腰までズッポリハマってるじゃないか。」
「痛くはないですけど下半身がすごく寒いです」
「上に同じく」
「まぁ大変! 湯冷めしちゃってるのかも! ツガちゃん早く抜いてあげないと!」
先程までとは打って変わって、皆落ち着いて状況整理をしていた。
騒いでいたらオリセがいる限り、二次災害がおこるからだ。
「とりあえず引き抜くしかないな。お前ら全員水気を取って服着てこい、お前らまで湯冷めしたら大変だ。オコナはミカーヤに二人の服を頼んでこい。ついでに私の持ってきてくれ」
「わかった! すぐ用意する!」
ツガが指揮を取ると、皆一目散に従い行動を始めた。
皆が行ったのを確認すると、ツガは冷静に慌てず壁を調べ始めた。
「あまり動くな、崩れたら大変だ。しかしなんでここだけすごく脆かったんだ? 怪我がなくて幸いだったが、どうにも腑に落ちないな」
「わ、わかりません。筋肉で貫いたとか?」
「馬鹿なことを言うな。筋肉があるからって、バニーガールが壁を破壊できるわけ無いだろ。それでお前は腕抜けないのか?」
ツガに言われシュウキは慎重に腕を動かしてみたが、ミシミシと嫌な音がするだけで抜ける気配はなかった。
圧迫されてそろそろ腕が痺れてきたシュウキは、カズヤのように腕を組めばよかったと後悔し始めた。
そうこうしているうちに、服を着たメイド達が戻ってきた。
ツガはオコナはまだかと気にしていたが、メイド達に必死に追いつくように後ろから走る姿を見て、安心して二人の方に向き直した。
「とりあえずみんなで引き抜くぞ! まず上にいる新入りから引き抜く! 全員新入りの腕を持って引っ張るんだ」
ツガが体を拭きながらメイド達に伝えると、カズヤの元にメイド達が集まってきて腕を持ち、綱引きのように引っ張り始めた。
(ありがとう……モブ顔の皆さん、俺のために頑張ってくれて。感謝で胸がいっぱ……イダダダダダダ!)
「痛いです! 先輩! 腕じゃなくて胴じゃ駄目ですか!」
「そうはいってもお前の筋肉は分厚くて持ちにくいんだ。せめて取っ掛かりがあれば」
ボフン
ツガの言葉を待ってましたと言わんばかりにカズヤの体はバニーガールに包まれた。
「ミカーヤがやったんですよ! 先輩バニーの耳引っ張れませんか」
「いいタイミングだな! 全員腕じゃなくて服を引っ張るんだ!」
打開策が見えてきて皆は安堵しながらバニー服を引っ張りに行った。
(ツガ先輩のおかげでなんとかなりそうだな、バニー服があってよかったぁ。それにしてもこう見るとメイドのみんな服に個性出てるなぁ、果物柄や動物柄、それに裸……裸!?)
カズヤは自分の目を疑いもう一度確認すると、そこには今最もこの場にいてほしくない悪魔が立っていた。
皆も唖然とし、冷や汗をかきながらオリセを見つめていた。
「滑って気絶しちゃってたけど助けに来たよ〜! 引っ張ればいいんだよね? 任せて!」
「うわァァァァ! 先輩やめてエエエ」
「オリセ触るなぁァァァ」
「オリセちゃんストップ!!!」
「「「私達がやるので先輩は座っててください」」」
皆が止めようとしたが、オリセの素早い動きの前では無意味だった。
オリセはシュウキをまたいで肩にカズヤの腹を乗せて担ぐと、力いっぱい前方に踏み込んだ。
ベキィ!!
(あれ? さっきまでいたカズヤいきなり見えなくなって、代わりに天井が見えるぞ?)
疑問に思いシュウキは視線を下にずらすと、真っ青になりながら仁王立ちをしているオリセと、壁に刺さったピンク色の赤い滝を流す鯱があった。