悪巧み
「カズヤちゃんもう朝食よ〜! 寝坊なんて珍しいわね……部屋の真ん中で何やってるの?」
朝食の時間にも関わらず未だに降りてこないカズヤを呼びに行ったオリセは、部屋の中央で座ったまま眠っているカズヤを発見した。
「あれ、もうこんな時間!? すみません先輩すぐ支度します」
オリセに呼ばれた事で目が覚めたカズヤは急いで身支度をすますと、メイド館1階まで駆け下りていった。
居間に行くと、既に食事を始めたメイド達が話をしながら和んでいた。
カズヤはオリセの隣だけは行くまいと空いてる席を探していたら、席を確保してくれていたシュウキとミカーヤが手を降っていた。
「席取っててくれてありがとな。それはそうと、なんで起こしてくれなかったんだよ」
席に座るなりカズヤは耳打ちをしながら2人に愚痴を吐いた。
「あれで寝てたなんて、わかるわけないじゃないですか! 部屋の真ん中に居座って邪魔でしたよ!」
「そうだぞ! お前なんであんな変な所で寝てるんだよ」
愚痴を吐くなり2人に逆に怒られた事で、カズヤはしょんぼりしながら食事に手を付けた。
食事が終わり食器を片付けると、3人はいつもの様に本館へと向かった。
「カズヤちゃん今日も一緒に頑張ろうね!」
本館に向かってる途中、オリセはカズヤを発見すると、いつもの様に駆け寄って話しかけてきた。
オリセが来たのを見るとシュウキとミカーヤは、それぞれの先輩の元へ向かった。
(俺が死ぬかもしれないにしても、まずどうにか部屋に入らないといけないからなぁ。やっぱりオリセ先輩と仲良くなるしかないかなぁ?)
「カズヤちゃん?」
カズヤは本格的に部屋に入る方法を考え始めた事で、周りの声が聞こえないほど自分の世界に入り込んでいた。
(でも仲良くなっても聞き出すのは難しいから方法はこの一つかな。先輩に俺達の頼み事を絶対聞けるような状況を作る。借りでも、恩でも、脅しでも、いや脅しはなしだ―――)
考え込んでいたカズヤは突如、何かに頬を左右に引っ張られた。
「カズヤちゃん〜? 返事はちゃんとしましょうね〜」
オリセは頬を膨らませて怒った顔をして、背伸びをしながらカズヤの顔を引っ張っていた。
「しゅひはへん。反省してるので離してください」
カズヤの謝罪を聞くと、オリセはニッコリ笑って前を向き直した。
「よろしい! 今日の担当は水くみです、早速行きましょう」
仕事内容を聞いた瞬間カズヤは顔をしかめた。
重い、冷たい、めんどくさい、やりたくない仕事三拍子が詰まった最悪の担当場所、それが水くみだ。
水くみはここのメイド達にトップレベルで嫌われている仕事で、苦を感じないのはぶっちゃけオリセ以外いないのだ。
「先輩……わ、私今日は―――」
「あ、ツガちゃん! 今日はツガちゃんもここ?」
話を遮られた事で少し驚いたが、話がズレた事好機を逃さぬように、目を輝かせながらオリセの向いてる方向に目を向けた。
「オリセも水くみか、今日は4人で頑張ろうな……」
カズヤは少々驚いた、シュウキは当然として、あのツガすらも水くみの前では元気を失っていたのだ。
ツガは虚ろな目をしながらカズヤに目をつけると、何か閃いたように手を叩いて、カズヤを手招きした。
カズヤは指示されたとおりに近づくと、ツガに服を引っ張られてシュウキと共に顔を近づけた。
「ようし新入り、お前達も水くみ嫌だよね? 協力しないか? なんとか言い訳して誰かに任せるんだ。オコナなら最長だしやってくれるかも」
ツガは悪い顔をしながら、2人にとんでもない事を提案した。
「最高じゃあないっすか。私はそれに賛成しますよ! 私が乗ればオリセ先輩はもう手の中ですよ。ウケッケッケ」
「2人が乗るなら希望が見えますよ! 私もツガ先輩に協力します、ミカーヤ達みたいな天才メイドに任せればいいんですよ!」
こうして、カズヤ、ツガ、シュウキの嫌な事押し付け同盟が結成された。
3人はオコナ達に水くみの仕事を押し付けるために、不可能に近いミッションへと足を踏み入れた。