裁判の結果!
「ウン……いや、シュウキさん起きてください。名前慣れませんね。」
「ん、もう朝か」
裁判当日。美少女と美少年は変態バニーを助けるため、早起きをしていた。
数日ぶりの早起きに慣れず、シュウキは顔を洗ってる間も寝ぼけていた。
その点、元天才メイドロボットミカーヤは早起きなどへっちゃら、と思いきや人間になった事で早起きは少し苦手になった。
「とりあえず。お昼の裁判に間に合うように、凄腕の弁護士探しましょうか。」
「前から思ってたけど、この国裁判早いよな」
人間になった事で、洗顔と歯磨きができるようになったシュウキは、今までの分を取り返す勢いで磨いていた。
話を聞きながらミカーヤは、朝の日課のオイルを、間違えて肘窩や膕に差し込んでいた。
「うわ! ヌルヌルになっちゃった……人間になったのはいいですけど、まだ間違えちゃいますね。それで、裁判の件ですけど……うわ、口から血出てますよ。」
オイルを拭き取りながらシュウキの方を振り向くと、磨きすぎか、磨かなすぎか、歯茎から血が出ていた。
血が出ているのを見てミカーヤが驚いている事に気づいたシュウキは、早急に歯磨きをやめた。
「ごめんごめん。うんこ時代は口ゆすぐ事しかできなくて。血出ちゃった。それで、話の続きは?」
「あぁ、すみません。それでですね、この国が早い理由ですけど、明確には分からないんですよね。聞いた話によると、30日も長い期間を書くのが面倒くさいとかなんとか。書類の話ですかね?よくわからないです。それよりご飯作りますけど、何がいいで――ワー! ここで着替えないでください! 居間ですよ!? 顔が女の子でも流石に気にします!」
話しながらキッチンに向かい振り向くと、シュウキが服を持って着替えていた。
驚いたミカーヤは滑ってキッチンで転けてしまった。
「すまんすまん。腰大丈夫か?」
「大丈夫ですよ。あ! それ以上近づかないでください!」
心配して駆け寄ってきたシュウキから顔を背け、手を向けて静止させた。
「いや〜話してたしご飯食わないといけないからさ、女顔だしいいかなって。あ、ちなみにご飯は日本男子だし、焼魚で。」
ご飯を伝えるとシュウキは急いで廊下に出て、部屋に戻った。
廊下へのドアが閉められた事を確認すると、ミカーヤは立ち上がりご飯の準備を始めた。
「あの人17歳でしょ。思春期真っ只中なのに、恥ずかしくないのかな。それより日本ってなんでしょうか? なにかの名称? 転生者はわからない事が多いですね、まったく。」
―――3時間後―――
「起きろ、もう9時だ! いつまで寝ている、裁判当日だぞ! イルバヤタは午後の裁判の為、朝食を食べて待機! そこの御者は1時間後に裁判だ。食事は抜き、すぐに用意しろ」
カズヤ達は兵士に叩き起こされ、目を擦りながら体を起き上がらせた。
ご飯がないことで御者は絶望した顔で泣いていたが、兵士2人は無視して両腕を掴んで引きずって行った。
「もう起きるの〜? ふぅ、名字呼ばれたの初めてかもな。」
「そこ! 誰が喋っていいといった!」
「はひっ!」
カズヤは寝ぼけながらブツブツと呟いていたら、私語に気づいた兵士に手を警棒で叩かれた。
叩かれた場所を擦りながら、バニー服から差し出された服に着替えた。
(オレンジの服か……囚人服じゃねえか! まだ有罪かどうか決まったわけじゃないのに……この国おかしいだろ。まぁ、俺が着たらバニー服になるけどね)
私語に気をつけながらカズヤは服を着替え、ご飯が来るのを待った。
十数分後。
上の階から兵士がご飯を持って降りてきた。
差し出されたお盆を受け取り、ご飯のラインナップを見てみると、質素な囚人食のようだった。
「はぁ!? この国頭おかしいのか!? 無罪かもしれない俺に、こんな仕打ち!」
「そこ! 私語は厳禁だぞ!」
カズヤの叫んだ事で、監視役の兵士が詰め寄ってきた。
だが一度キレたカズヤは止まらない。
カズヤは兵士を『ハント·ハンド』で持ち上げて、壁に叩きつけた。
重装備の重量で壁に叩きつけられた兵士は、そのまま気絶してしまった。
「しゃあ! ここまで来たら、とことんやってやるよ。この国を転覆させて俺が王になる!」
吹っ切れたカズヤはもう止まらない。
スキルで兵士を引っ張り、腰についている鍵を奪い取って、留置所から抜け出した。
カズヤはバレないように息を潜めて、上につながる階段を登っていた、後少しで上の階につくところで、騒音を確認しにきた兵士と鉢合わせてしまった。
「え、え、え? あ、どうも。そのー、トイレ行きたくなっちゃって……」
「み……みんな! 脱――」
叫ぼうとしていた兵士の口を抑えて、階段下に引きずり込んだ。
兵士は引き剥がそうと、肘打ちをカズヤの腹に打ち込んだが、勢いのついてない攻撃でカズヤの筋肉は貫けなかった。
「こういう時に役立つ、バニーガールのスキル行きましょー」
『淫女の誘惑』
カズヤはスキルを使い兵士にキスを仕掛けた。
カズヤに口づけされた兵士は、見る見るうちに魔力が吸い取られて力が抜けていった。
そして、魔力を完璧に吸い取ったカズヤは元気いっぱいに――
「オロロロロロロロ……元気になるわけねぇだろ! 最悪だ。この世界に来て初めての接吻が、ヒロインじゃなくて公務員とか……いや、全然上手くねえな。やめよう」
バレるのを防ぐため兵士の鎧を奪い取り、上の階に登った。
上の階にはご飯を食ってる兵士や、テーブルゲームで遊んでる兵士、など暇をつぶしている兵士が大量にいた。
「よう! 下の階の騒音なんだった?」
振り向くと凄くチャライ兵士がいた。
兜のおかげでカズヤが変装している事には、バレてない様子だった。
「お、おう。なんか下で兵士が転けてただけだったわ。」
(あ、あぶね~。小説で良かった〜、声の違い分かんねえもんな。)
カズヤは適当にあしらって外に出ようとした。
するとチャライ男は去ろうとするカズヤの肩を掴んで止めた。
「おいおい待てよ。まだポーカーの途中だろ? 逃げんのかよ、勝ち逃げはダメだぜ。それにそろそろ甲冑脱げよ、表情隠すのは禁止だろ?」
チャライ兵士はカズヤの前に回り込み、兜に手を当てて、上に引き上げ――
「あ、そうそう! 下に行った時にさ……留置所の野郎に、ゲロ吐かれたんだよ。洗いに行かせてくれ」
「ん!? そうなのか……それはすまねえ、早く帰ってこいよ。」
苦しい言い訳でなんとか危機をくぐり抜けたカズヤは、破裂しそうな心臓を抑えて出口に向かっ―――
ゴッッパァァン
その時、カズヤの兜が弾け飛んだ。
全兵士の視線はカズヤの兜に集まった。
全兵士は目を疑った、兜からピンクのウサギの耳が飛び出ているのだ。
カズヤは恐る恐る自分の兜を触り、耳が飛び出ている事を確認すると、息を整え、出口に走った。
「「「追えぇぇぇぇ!!!!」」」
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
カズヤの後方から大群の叫び声と足音が聞こえる中、カズヤはそれにも負けない声量で叫んだ。
必死に走り出口と思われる扉をこじ開けた先は、訓練場だった。
指導をしている初老の男や、剣を握った若者達の視線は全てカズヤに集まった。
「「「ひっ捕らえろぉぉぉぉ」」」
「なんでぇぇぇぇぇぇ!!」
溢れ出そうな涙を抑えて、カズヤは走った、走りに走った、息が上がっても走り続けた。
だが訓練された兵士の体力には勝てない。
常に鎧をつけた兵士達にとって、生身で走るのは歩く事と同じように楽だった。
カズヤは行き先も考えずに、王都中を走り回っていた。
「ハァッハァッハァッ。そうだ、王室! 王室に行って事情を説明すれば、勇者の俺は助かるかもしれない! うぉぉぉぉ! 御者と城に突っ込んだ時の事を思い出せ! 城に迎えええ」
カズヤは記憶を頼りに、城に向かって走り始めた―――
「ふぅ、やっと弁護士見つかりましたね! シュウキさん」
「あぁ、凄腕の弁護士がいてよかった、結構時間かかっちまったな。裁判の時間まで飯でも食うか!」
「俺にかかれば、カズヤって奴助けてやるyo! 凄腕弁護士舐めんなyo! 飯に賛成だyo!」
ミカーヤとシュウキは裁判の為、弁護士を探し渡って王都を走り回っていた。
昼前にようやく凄腕を見つけた2人は、弁護士と共に呑気に買い物をしながら、時間を潰していた。
シュウキの提案で飯屋に向かおうとしていた3人は、近くで騒ぎが起こっていることに気づき、好奇心で3人が向かってみると、そこには大量の兵士に追われたカズヤがいた。
「え? え? カズヤさん!?」
「何やってんだあいつ!!」
「ヤバイ状況だyo! とりあえず追うんだyo」
弁護士の言うとおりに3人は走り出し、兵士の後を追った。
―――ようやく城にたどり着いたカズヤは、少しでも撹乱するため、ジグザグに部屋を経由しながら王室に向かっていた。
「後少し、後少し、後少しで王室だ。クッソ、脇腹が痛え。あいつら体力底なしかよ、そろそろバテろよ。」
走り出した当初に比べ、兵士の量は少し減ったが、それでも40人は下らない人数だった。
兵士達は王室に向かっている事に気づき、焦った兵士達は死ぬ気で足を動かした。
「見えた、王室! 扉が邪魔だァァァ! 消し飛べ!」
走っている勢いを乗せて、王室の巨大な扉を蹴破った。
そこには精鋭10人の兵士と、玉座に君臨する王がいた。
精鋭の兵士達はカズヤに気づくと、武器を握りしめ懐に飛び込んだ。
「やめい! その者はわしの客人だ、手を出すことは許さん」
カズヤと精鋭の戦いが始まる数瞬前に、王が立ち上がり、声を張上げ、その場にいる全員を止めた。
精鋭達は王の命令を受けると、持ち場に戻った。
追っていた兵士達も敬礼をして、城から出ていった。
「これで邪魔者はいなくなったのう。それで、なんのようかな? 勇者カズヤよ」
兵士が全員持ち場についた事を確認すると、王は玉座に腰を掛けた。
カズヤは身の潔白を証明すべく、今までの事全てを話した。
話している間、王は口を挟まず常に聞く姿勢を見せてくれた。
その対応にカズヤは安心して、口から踊るように言葉が出てきた。
「ふむ。話は分かった、災難じゃったな……でもダメじゃ」
「な、なんでだよ!」
カズヤの返しに待ってましたと言わんばかりに、王は後ろの部屋から一人の女性を連れてきた。
ドレスを着た女性を自分の代わりに玉座に座らせると、カリスマ性のある渋い顔を崩して、ニヤニヤとし始めた。
「この美少女に見覚えはないかな? そう、君を捕まえた兵士じゃ。実はこの子はワシの娘で、あの日は1日兵隊長だったんじゃ。それで初めて捕まえた悪人だ、だから有罪は確定なの。」
王の話で全てが繋がった。
一番弱いのに兵隊長になった小柄な兵士、まだ裁判も起きてないのにこの仕打ち。
娘に捕まったことで有罪が確定していたのだ。
「う、嘘つけ! 戦士の何倍も強い、俺の仲間より強かったんだぞ! 王室で育った甘ちゃんがそんなわけ!」
「ワシら王族は代々武闘派だ。」
「だとしても、俺は勇者だぞ! 魔王を倒すのに、俺の力が必要なんじゃないのか!」
「その件なんだがな、一つ腑に落ちない事がある。一つ聞こう、勇者カズヤよお主はいったい何者なんじゃ。」
「どういう……」
思いがけない質問でカズヤは思考が停止し、硬直した。
「答えられないようだな、ならもういい。話は終わりだ」
「そんな」
カズヤは絶望した、この先の裁判で無罪になる可能性に淡い希望を抱いていたが、元から希望なんてなかったと。
転生ライフがたかが娘一人に潰される事で、大粒の涙を溢しかけたとき、聞き慣れた声が後ろから聞こえてきた。
「頑張ってるみたいだな、カズヤ。助けを連れてきたぜ」
「もう、待つことすらできないんですか? 騒ぎ起こしちゃいけませんよ。」
「お前がカズヤかyo! もう大丈夫だ、後は俺に負けせておけ。お前の未来は俺が決して潰させねえ。」
カズヤの一番信頼する仲間2人と、悪そうな奴は大体友達っぽい奴が駆けつけてくれた。
ミカーヤとシュウキはカズヤの脇に首を通し、崩れ落ちたカズヤを立ち上がらせた。
「イダダダダ、馬鹿かお前ら! 身長考えろ! 右脇引きちぎれるわ! 降ろせシュウキ!」
「は? お前カッコよく登場した、俺らに何だその仕打ち。」
キレたシュウキにカズヤは地面に叩きつけられた。
カズヤはぶつけた腰を擦りながら、二人の横にいる知らないオジサンを見つめた。
「ねぇ、何この人。新しい仲間?」
「あ、弁護士です」
「yoろしく!」
ミカーヤに紹介されると、弁護士は満面の笑みを向け、手を差し出してきた。
カズヤは困惑しながらも握手をした後、ミカーヤとシュウキを少し連れてコッソリ話始めた。
「ねぇねぇねぇ。弁護士って堅物じゃないの? 何あれ、すっげえ路地裏にいそうなんだけど。路地裏が生息地のモンスターだよ絶対。」
「カズヤ、俺も驚いた事がある。でもこの世界はあれが普通だ。」
「そうですよ。しかもこの国屈指の凄腕です」
半信半疑で弁護士の方を振り返ると、満面の笑みでグッジョブをしていた。
素晴らしい笑顔の持ち主を疑う事は失礼だと思い、ミカーヤとシュウキの言葉を信じてカズヤは弁護士に再度握手をして、王に裁判を持ちかけた。
「役者は揃ったぞ! ここまで来たら、せめて裁判で決着をしろ!」
娘とイチャ付いてた王は、話が終わると凛々しい顔に戻って、四人を見渡した。
そして弁護士を見ると驚き、声を荒らげた。
「なんと、その昔舌神と言われた弁護士を味方につけたか。良かろう、王族秘蔵の弁護人と勝負をしてみるか?」
王の評価に弁護士を2度見して驚きながらも、裁判に持っていけたことで、カズヤは希望が見え始めた。
王が合図を送ると、兵達が準備を始め、見る見るうちに、部屋が裁判所に変形した。
裁判官の席に王が腰を掛け、カズヤは被告人の位置につくと、弁護士も自分の席に腰を掛けた。
しばらく待つと、一人のチャラい男が王室に入ってきた。
男は王に手を振ると、カズヤ達の弁護士の向かいの席に座った。
「それでは、裁判を開始しよう。まずはお互いのバトル後、証拠を展示して進めていく。」
カズヤが裁判では聞き慣れない言葉に困惑していると、弁護士2人がマイクを持って立ち上がり、ジャンケンをした後しばらく話し終わると、どこからともなく音楽が流れ始めた。
音楽は10秒程で鳴り止み、2人の弁護士が少し考え込んでいると、王の合図で再度音楽がなり始めた。
音楽がなり始めると、王側の弁護士がマイクを持って歌い始めた。
「yo! yo! 被告人カズヤ♪非国民東にて♪王都1の酒場を燃やす♪ほんと未知の馬鹿だよこいつ♪酒場を墓場にして、逃げてどこ行く。あらま森の中♪森の中で捕まえて、一直線に檻の中♪」
「それはただの冤罪♪求める謝罪♪酒場の建材が健在なら、なかった現在♪あの日は強風、炎消すには億劫、湧き上がる恐怖♪そして起きた悲劇全員降伏」
カズヤの目の前で聞いた事無いほどの、激しいバトルが繰り広げられていた。
最初のバトルが終わると2人は席に付き、話し始めた。
「えー被告人のカズヤは、強風の日にも関わらず、酒場の近くで火を扱っていました。重過失失火罪であると思われます」
「被告人はちゃんと、酒場から距離を取って火を扱っていました。だが不幸にも仲間の一人に、火が燃え移ったのです。あの場に水の魔法を使える者はおらず、布で火を鎮火させようにも、あの場でシュウキ氏の動きを、捉えられる者はいませんでした。よってあれは不幸な事故です、カズヤ氏も被害者です。」
先程のラップとは打って変わって、裁判らしい進み方だった。
カズヤは少し不安だったが、味方の弁護士の饒舌具合に信頼を置き、気楽に裁判を眺めた。
「なるほど。では、被告人からはなにありませんか」
王に話を振られたカズヤは、何を言うべきか悩みこんだ。
少しでも裁判を有利に進めれて、なおかつ虚偽のない情報を考え込んだ。
「あの日は風が強かったです。」
カズヤは緊張しすぎて変な事を口走り、心の中で後悔しながらカズヤは黙り込んだ。
だがこんな時にも、頼りになるシュウキがカズヤの元に近づいてきた。
シュウキはカズヤの肩に手を置き、満面の笑みでアドバイスすると思いきや――
「聞いてくれよ。さっき気づいたんだが、この音楽前の世界で俺聞いたことある」
「うるっせぇよ! お前最近うんこ卒業したからって、調子のんなよ!」
2人の茶番を無視して、王側の弁護士は証拠を取り出した。
証拠を見た瞬間、カズヤ達は青ざめた。
証拠の意味が分からない弁護士が困惑していると、王側の弁護士が高らかに語り始めた。
「これは、カズヤ氏の故郷の写真です。この村の写真に、一際大きい建物があると思いますが。これがカズヤ氏の故郷の家です、実はこの家は1週間ほど前に、カズヤ氏の手によって火事でなくなりました。原因を調べていると、ある事が判明しました。なんと燃えた原因が、酒場が燃えた原因と一致したのです。一度過ちを犯したならつぎは気をつければ起こらないはず、今回の再犯は重過失失火罪とみられます」
王側の弁護士が喋り終わると、カズヤ達の弁護士は青ざめ、膝から崩れ落ちた。
弁護士が勝ち誇り、マイクを手に取ると、どこからともなく音楽が流れ始めた。
「情報の公開♪にお前は後悔♪気分は大海原を航海♪精神の崩壊♪弁護の熟練度が違う♪お前ら屑連合じゃ勝てない♪弁護の隙き打ち♪判決打首♪」
「ま、参りました。」
カズヤ達の弁護士が負けを認めた。
相手の弁護士は勝ったことで、鼻歌を歌いながら帰っていった。
「ワシらの勝ちじゃな、判決を下そう。ねぇねぇ初手柄の判決どうする?」
余裕を見せている王は甘い声で娘に駆け寄り、遊んでいた。
カズヤは有罪を潜り抜けるため、必死に頭を回転させた。
方法を探そうにも、全て打ち砕かれ絶望がその姿を明確にしていくだけだった。
「ん~。死刑!」
「いいよー! じゃ死刑にするね!」
クソみたいな判決で、カズヤの異世界ライフは終わりを告げた。
ミカーヤは泣きじゃくり、シュウキは崩れ落ち、カズヤ陣営は全員終わりを悟った。
一人を除いて。
「ちょっと待ったァァァァ! なんで気づかなかったんだろうな。ありがとな弁護士。お前が時間を稼いでくれたおかげで解決策が浮かんだ。」
「何を言っている! 負けはもう決まっている、ワシの娘の判決で終わりじゃ」
王が立ち上がりカズヤを怒鳴りつけた。
だがカズヤは王の怒鳴りにも怯まず話を続けた。
「王ちゃんよぉ! お前、国の金が無くなってきてるだろ?」
カズヤの一言に王は反応した。
「ミカーヤに聞いたが、酒場は国の心臓らしいな。なのにあんなにも大きな酒場が、手入れされてないのはおかしいよな。お前、国の金枯渇してんだろ?」
図星なのか王は口答え一つしなかった。
王に対する無礼な言葉を止める兵士はいなかった。
兵士もみな気づいていたのだ、金の枯渇に。
もはや神のお告げのように、その場にいる皆が耳を傾け、聞いていた。
ミカーヤは涙を止めて、希望の光に答えるように立ち上がり、シュウキはカズヤの土壇場の強さに心を震わせた。
「3億だ! この金を賄賂として送ってやろう、その代わり俺を無罪にしろ! 覚えておけ、皆の衆。不可解な事があろうと、何者だろうと、俺が世界を救う勇者だ! この世界の未来を夢見るなら、俺を無罪にしろ!」
王は笑っていた。
自分の懐を全て見透かされ、いつの間にか形成が逆転していたのだ。
負けたにも関わらず、王の心はスッキリしていた、娘が駄々をこねようと、この勇者に従おうと思った。
ここにいる皆も同じだった、男の話に全員が心を打たれていた。
そして、皆が同じ事を思った。
罪人として裁かれる位置にいる男が、世界を救うと豪語しているのだ。
まったく型破りな勇者だと。
「フフッ、よかろう。判決無罪! 勇者カズヤを釈放する!」
「よっし……おわっ!」
カズヤがガッツポーズをしようとしたら、後ろからミカーヤとシュウキが抱きついてきた。
「良かったよぉぉぉ! カズヤさん無罪だぁぁぁ!」
「お前ほんとにすげえよカズヤ! もうだめだと思ってたのに!」
3人は喜びを分かち合った。
その後、3人は城から数人の兵士と共に出て自宅に戻ると、3億円分の金貨を兵士たちに渡した。
賄賂を受け取った兵士たちの後ろ姿を見送った3人は、家に入り、何気ない会話をしながらご飯を食い、眠りについた。
やっと序章が終わった。結構苦しいムリヤリ感凄かったけどそこは大目に見てください。こっからやっと話を面白くしていける