25 『ルナアリア・フォン・ジュレイン』
それからの話は、少し恥ずかしいので、簡単に語らせて欲しい。もう3年も前の話でもある。
巫女となった私の前に、ウィリアム王太子殿下は……いいえ、ウィルはすぐさま進み出て跪き、結婚の申し込みをした。婚約を省くなんて、今思えばせっかちな人だ。私たちは知り合って1年も一緒にいなかったのに、あっという間に惹かれ合った。
私は、もちろんですとその申し出を受け入れた。
巫女は只人でもある。そして、ベルグレイン教の巫女でもある。身分差などというものは無く、私は巫女で、今は王太子妃だ。
ウィルとの子供は、来月産まれる。結婚式は……あまりに盛大で、驚いた。
顔も名前も知らない平民にも、知り合いやそうじゃない貴族にも、他の国の王族や大神官も祝いに来た。巫女の結婚式とは凄いんだなぁと思った、と後でウィルに言ったら、これはルナアリアだからだよ、と笑われた。
私は『生まれながらに戦争を止めた巫女』だからだそうだ。笑ってしまう。
『名無し姫』であり、離宮で隔離されて常識すらおぼつかず、自分の気持ちも言葉にできなかった私だ。
それをここまで育ててくれたのは、札に導かれて観に行った離宮と王城の境、渡り廊下を歩いていた大使のウィルが、木の上の私を見つけてくれたから。
そして、ウィルが私を銅貨一枚で買ってくれた。その後、何不自由無いように陛下や王妃様に育ててもらい、大聖堂で巫女として得るべき知識を得て、そしてウィルが迎えにきてくれたおかげだ。
占い札は、子供は娘だと言っている。どんな名前がいいかしら、と思いながら札をめくろうと思ったが、名前はウィルと二人で考えようと思っている。
まだ、お腹の中にいるのが女の子だというのは黙っておこう。生まれてから決めても遅くないはずだ。それに、ジュレイン王国の王女は女性名と男性名が与えられる。ウィルはもう、さっそく名前を考え始めているようだ。本当にせっかちな人だと思う。
ウィリアムが、未来に幸あれ、という意味の名前で、私が、希望までの道標という意味の名前だ。
生れて来る子には、私たち二人からどんな願いを籠めて名前をつけよう。ウィルが悩んでいる候補から選んでもいいし、私もどちらか片方は考えたい。
ルナアリア・フォン・ジュレインとなった私は、それからもっともっとたくさんの事を学んだから。
子供の幸せを願わない親なんていない。本当にそうだ。……元気に生まれてきて。そして、私も必ず元気であなたを育てるからね。
毎日そう言い聞かせながらお腹を撫でている。
そこに、仕事の合間にウィルが顔をのぞかせた。私は、変わらず喜びにあふれた笑顔で彼を出迎える。
私は今や、何も持っていない私ではないから、これを何と言うのかを知っている。
幸せ、だ。
お付き合いくださりありがとうございました!
名無し姫のお話はここでおしまいですが、他の作品もよければお楽しみくださると嬉しいです。
今後もどんどん新作などを出していきますので、よければ作者をお気に入りしてくださると通知がいくかと思います!
読んでくださりありがとうございました!




