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23 『ルナアリア』の覚悟と散歩

 王妃様の言葉を飲み込むのに、私は暫くの時間を要した。たぶん、数十秒とかだと思うのだけれど、真剣な王妃様の瞳に、私は戸惑いを隠せなかった。


 私のお母さんは、レイテリス王国の国王との婚外子である私を身ごもる事で、巫女を穢した、として責められるのを恐れて戦争の気勢を削がれた。


 なのに、私は巫女になっていいのだろうか。巫女となったら、誰とも結婚できないのではないだろうか。まして、ウィリアム王太子殿下となど。


「勘違いしないでね。巫女は結婚できないわけじゃない。むしろ、ベルグレイン教の巫女ともなればどの国の王族よりも尊い存在なの。だから、貴女は巫女としての才覚を活かして巫女になるのよ。そうすれば、ウィリアムとの結婚を誰も咎める事はない。誰にも邪魔できない。……城のように快適な生活ではないわ。でも、巫女になってしまえば……ウィリアムが必ず迎えに行く。それまで、大聖堂で頑張れるかしら?」


 王妃様の言葉は慈愛に満ちていた。


 その準備のために、ずっとウィリアム王太子殿下は忙しくしていてくれた。王妃様も分かっていて、私に王太子妃教育とも言えるほどの淑女教育を施し、様々な人と関わらせ、人脈を作らせた。


 私は身分の定かでない身。名前さえなかった『名無し姫』。札に導かれて、新しい発見でウィリアム王太子殿下を見つけ、見つけられ、好きを知って、恋を覚え、それら全てを裏付けるためにベルグレイン教の巫女という身分を手に入れる。


「わかりました。私は明日より大聖堂に入ります。王妃様……、全て知っていて……ありがとうございます」


 王妃様の腕が伸びてきて、私を抱き締める。本当の母親のように、私を大事に抱き締めてくれるひと。


「ルナアリアちゃん、私はあなたのお母さんになりたいの。だから、しっかり巫女となるべく大聖堂で学んでちょうだい。結婚してから恥をかくような教育はしませんでしたからね。……身分だけ。あとは、身分だけ手に入れればいいいわ」


「……母神様は、不純な動機だなんて思わないでしょうか?」


「あら? 母神様は貴女の『名づけ親』よ。子供の幸せを願わない母なんているわけないじゃない」


 確かに、お母さんから預かった名前とはいえ、母神様が授けてくれたものだ。何も無かった私に最初に与えてもらった『名前』という私だけのもの。


 お茶目に片目を瞑って告げる王妃様に、私は嬉しくて笑ってしまった。


 その日は明日に備えて少しの荷造りをして、あとは窓辺でぼんやりと外を眺めて過ごしていた。


 長かったようで、短かった。このお城での記憶は全て新鮮で楽しく、疲れてしまう事もあったけれど、とても……暖かかった。


「ルナアリア」


「わっ……! うぃ、ウィルさん」


「驚いた? 久しぶりに、散歩にいかないかい」


 そう言って、彼は私に立つように促してくる。それに逆らう理由は何もなかった。


 ウィルさん、私、明日大聖堂に行くんです。そんなことを言って水を差したくなかった。


 抱き上げられて、今日はブーツで連れて行かれた花畑は、また違った花を咲かせて出迎えてくれた。


 この場所に感じるのは、開放感。身も心も、全部自由だと思わせてくれる。きっと、王室の人は皆どこか息苦しさを覚えているに違いない。だからこんな裏庭があるのだろう。


 私は今日は駆けまわったりせず、ただ、ウィルさんと手を繋いで花畑を眺めていた。


 夕陽が差し込むまでずっと、ただ、手を握って花畑を見詰めていた。

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