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19 『ルナアリア』へ初めてのお見舞い

 コンコン、とドアをノックする音がした。


 泣きじゃくりながら起きた後、私はすっかり頭痛や息苦しさ、熱もなくなっていて、一応安静に、という事でお粥を食べて水と栄養補給の丸薬を飲み、ベッドに戻されていた。


 ずっと寝ていたから眠くないし、まだ眠るにも早すぎる時間だったので、侍女が灯りでも消しにきたのかなと思いながら、はい、と返事をする。


「私だ。ウィリアムだよ。……入ってもいいかい?」


「ウィルさ……ウィリアム王太子殿下? え、えぇと、ちょっと待ってくださいね」


 どくん、と心臓が脈打つ。今日はたくさん気持ちが揺れる日だ、と思いながら、枕元の椅子に掛かったショールを羽織って扉を少し開いた。


「ルナアリア、眠いかい?」


「いえ、それが……ずっと眠っていたものですから」


「そうだと思った。……よく眠れるものを台所からくすねて来たんだ。中に入ってもいいかい?」


「えぇ、どうぞ。まだ明かりも落としていませんから」


 私が流石に寝付けないのは見越して、侍女は後で灯りを消しに来ます、と言って出ていたのだ。


 まだ明かりを消すような時間ではない。一応、こんなに具合が悪くなったのは初めてだったので、安静に、という言葉には従ったけれど、眠れないものは眠れない。


 という事で、こっそり来たらしいウィリアム王太子殿下を部屋に招く。ソファに少し距離を開けて座ると、目の前に湯気を立てるマグが置かれた。香りからしてホットミルクのようだが、微かにハチミツの匂いもする。


「本当は、お花とかお菓子とかがお見舞いにはいいかもしれなかったんだけど……、数日あまりちゃんと食べていないだろう? ホットミルクならいいかと思って持ってきた」


「……くすねた、と言っていましたけど」


「私が手ずから温めたミルクです。どうぞ、姫」


「ふふ、まぁ。王太子殿下にそんなことをさせたと知られたら、私が追い出されちゃいそうです」


「大丈夫、ちゃんと飲み終わったら食器も洗って戻しておくよ」


「私の罪を重くしてどうするんですか。……ありがとうございます。いただきます」


 そっと少し温くなったマグを両手にもって、ゆっくりと口にミルクを流し込む。


 柔らかい口当たりに、久しぶりに甘いものを舌に感じて、ほう、と息をはいた。


 お腹の中があったまる感じがする。ウィリアム王太子殿下も一緒に飲んでいるのが不思議で、そちらに目をやると、彼の眼の下には隈が見えた。


「お忙しいんですね……」


「うん。……今日はルナアリアと一緒に、これを飲んだら早めに寝るよ」


 一緒に、というのがそういう意味でないと分かっていても、同じ時間に眠る、というのがなんだかドキドキしてしまって、私の顔が赤くなる。


「無理しないで、くださいね」


「……そうだね、体は壊さないようにする。ルナアリアのお見舞いには来れても、ルナアリアは私の部屋を知らないからね、会えなくなってしまう」


「それは寂しいです。お見舞いにいって悪くさせても嫌ですし……本当に、体には気を付けてください」


 しばらく会えない日々が続いて、今日はお母さんと会って、話して、嬉しくて寂しい気持ちでいっぱいの所にウィリアム王太子殿下……いえ、ウィルさんが現れて、私は感極まって泣いてしまった。


 私の事情は何も知らないだろうに、心情も知らないだろうに、ウィルさんは胸元のハンカチを引き抜くと、優しく私の涙を拭って頭を撫でてくれた。

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