16 ウィリアムと会えない『ルナアリア』
あんな約束をしたのに、2ヵ月もウィルさんと会えないまま時間が過ぎていった。
王妃様は私に似合うドレスを一通り試すと、ドレスの流行について教えてくれた。社交界の女性は、流行をきっかけに色々と話すそうなのだ。雑誌が出ていてそれを読んだり、王城にいる間は毎週のようにブティックのデザイナーが来るので、逆に王妃様は流行を作る側の人らしい。
どうにも私をそちらに巻き込もうとしている気がする。だけれど、デザイナーと一緒に図案を考えるのは楽しい作業だった。これまでの流行も一通り教えて貰い、なるべくは他人と被らないようにドレスは仕立てるそうだ。特に、夜会やお茶会などの特別な場に着ていくドレスは。
あとは、貴族や王族の女性は基本的に私服もドレスらしい。コルセットには辟易したが、普段着ならばそこまできつく締めあげなくてもいいらしいとも聞いた。
それからは、テーブルマナーや歩き方、ダンス、お茶の飲み方や扇子の使い方、座り方というごく一般的な教養。
あとは、私は会話が足りないからと、家庭教師や話し相手の行儀見習いの貴族令嬢を紹介された。彼女たちとの会話では、どういう場でどういう喋り方をすべきなのかや、どこまで踏み込んでいいのかなどのいい訓練ができた。
同時に、私はだいぶウィルさんに対して恥ずかしいくらい踏み込んでいた事を知った。
人と過ごす時間の他に、寝る前の時間に王城の本を読んでいい許可を貰って色々と読んでみた。叙事詩、物語、歴史書、あぁ、動物図鑑もあったので狸を見てみたけれど、もふもふとして可愛かった。
お父様は可愛い人なのかしら? と思ったりもしたが、今度誰かと話すときに、人に対して狸と言うのはどういう意味なのか聞いてみようと思う。
そして、私がウィルさんに感じていた気持ちや態度の正体が分かった。
言葉にしてみればたった2文字。そう、私はウィルさんが、好き、なのだ。異性として、彼が好き。
優しい王妃様や、一緒に晩餐をとってはマナーの覚えがいいとほめてくださる陛下、それにダンスを教えてくれる講師も、マナーや会話を教えてくれる行儀見習いの令嬢も好きだけれど、物語や叙事詩にでてくるような強烈な好きというのは、私はウィルさんにしか感じない。
こうしてみると、私はマリアンが嫌いだったと思う。意地悪だし、私の事をていのいい存在と考えていたのは間違いない。好きを覚えたら、嫌いというのも覚えるようだ。そして、何よりも名前も忘れてしまったあの離宮で私と関わらなかった侍女と使用人。彼らに対しては、嫌いも無い。これを、無関心というらしい。
こうして私は、ウィルさんへ伝えるべき言葉を見つけた。好き。早く言いたいのに、夜寝る前に彼を思い浮かべて口に登らせてみると、それだけでとても恥ずかしくなった。
顔をみて好きと言えるかは、とてもじゃないが自信が無い。……だけれど。
「会いたい……」
また、あの花畑に遊びに行きたい。ウィルさんと二人で、世界に二人だけのようなあの場所に。
本日より1日1話投稿となります。(長編改稿していきます)のんびりお付き合いください。よろしくおねがいします~!




