霙
掲載日:2021/01/17
私が6歳の頃の話だ。その日もいつもと変わらず、切り出し場へ続く林の小路の、突き当りにある切り株に腰かけて父を待っていた。その切り株は私が生まれる前に腐って倒れた楠のもので、私のような小さな子供なら寝転がれるほどの大きさがあった。その切り株に腰かけて、道の途切れる方に見える凍えた湖を眺めながら村ではやりのお歌を歌うのが、父を待つときの常であった。いつもなら氷を載せた父の橇の音が聞こえると、駆け出して行って飛びついて、その日のことを話しながら一緒に家へ帰る。雪と氷と干し肉しかない寂しい街で、当然父の収入も少なかったけれど、平凡で幸福な暮らしだった。
その日は、幼い私ですら空気にどこか違和感を感じた。雨交じりのつめたい雪が降っていて、いつもはからりと明るい冷気が、どんよりと淀んでいた。そのよそよそし気な林の冷たさに怖くなって、私は父母との約束を破り、切り出し場への道を走っていった。泣きそうになりながら徐々に薄暗くなる道を走りに走って、父の橇のすれる音が聞こえやしないかと、必死に耳を澄ませた。




