第一話 才能 .1
「私、あなたのことが好きよ」
月の光だけがその場を照らす。月の光によって生まれた影が僕達を包む中、彼女はいつもと変わらない笑顔で僕にそれを言った。
彼女のその言葉はいつもの彼女のなんでもない一言と変わらず嘘か本当か掴めない。僕はそれが酷く怖くて真実かも問うことが出来ない。そのモヤモヤが僕の頭の中を掻き回すようで気持ちが悪い。
それを悟ったのか彼女はまた微笑んだ。微かに彼女が微笑んだ瞬間、月の光が彼女を照らしたのに気が付いた。月の光が彼女の微笑みを照らす。それはまるで天使のように美しく、僕は彼女に気がついたら見とれてしまっていた。でも僕にはそんな美しい顔がまた悲しい顔に思えてしまう。そんなことに僕はまた下を向いてしまう。
「私を、殺して」
人殺しには彼女を救うことなんて出来ないのだから
第一話 才能
この世には才能がある。
才能とは凡人が持ちえないもの、努力では覆せないもの。僕にとって才能とはそういう物だ。
才能は生まれで決まる。生まれた時点で才能は無いものは永遠に才能を持った人達には勝つことなんてできない。
人は努力すれば夢が叶う、なんて言うが努力だけでは叶えれない夢なんてものもある。
だからこそ人は才能を欲する、才能を妬むのだ。
だが俺はそんな奴らに物申したい。
「俺はこんな才能要らなかった」
「何言ってんだ春?」
おっとどうやら口に出ていたようだ。友だちの秋に呼びかけられふと我に帰る。
まるで小説の始まりかのように心の中で僕はそうつぶやく。三河春、それが僕の名前。至って普通の男子高校生。机の上で食べ終わったお弁当を片付けながら僕は横の秋に顔を向ける。
秋「お前はまた変な事考えてたのかよ?」
春「変なこととは失礼な。俺はこういう暇な時間を有意義に使ってるんだよ」
秋「小説家なんてめんどくさいだけだろ」
丸で時間が止まったかのように感じた。
小説家、ぼくが小さい頃からの夢だ。昔から小説家に憧れていた。ただ小説家になりたくてふと始めた脳内小説作成。きっと諦めなければ夢は叶う!そんなことを思い始めた。
秋「それにお前現文の成績下から十番目ぐらいだろ。それに才能の世界だろ」
春「うっ・・・」
才能、そんな言葉に僕は言葉を詰まらせた。確かに僕は現文の成績も悪いし言葉遣いも変だ。でもきっと諦めなければ夢は叶う。
『努力だけでは叶えられない夢』
春「でも・・・頑張るよ。諦めなくないんだ」
僕は秋の目から目を逸らし頭を下げる。僕はきっと才能がない。そんなこと自分が一番わかっている。僕はきっと夢を叶えられない、本当は自分が一番わかっているんだ。
凡人じゃ天才には勝てないのだから。
秋「おい、清華さんだぜ!」
秋の言葉にふと頭を上げた。廊下の方を見るとカノジョは歩いていた。うつくしい長髪が揺れる。
他の人たちも彼女に視線を集めていてまるで彼女がこの場を支配しているように見えた。それも仕方ない、彼女が歩いているだけというだけで彼女は視線を集めてしまう。
「清華桜」成績優秀、運動神経抜群。素行もよくうちの学校の生徒会長も務める。まるでラノベのヒロインに出てきそうな完璧っぷりの女子高生。その綺麗な黒い長髪はまるで光を反射しているかのように輝いている。
彼女を見ると神様はなんて不平等なんだと思う。彼女は紛れもない天才。美術、音楽と言ったありとあらゆる所にも才能を見している。そして小説にも
それに比べ僕はなんの取り柄もない。頭も、まぁ理系科目にはすこし自信があるぐらいで文系科目は悲惨だし運動神経立って可もなく不可もなく。
まさに普通の僕。彼女と僕はまるで正反対。きっと僕と彼女は交わることの無い道を歩いている。きっとそれが凡人と天才なのだから。
そんなことを考えているうちに彼女は自分の教室に歩いていってしまった。
秋「清華さんやっぱり綺麗だよなー。やっぱり俺らなんて眼中にねんだろうなー」
その後にもなにか言ってたと思うが気がついたら昼休みは終わってしまっていた。
学校帰り、僕は清華さんのことを考えていた。彼女は天才だ。彼女の家はかなりの名家で父親もかなり名の知れた人だ。その家庭事情から彼女にもありとあらゆる英才教育を行ったらしい。
だが彼女にはそんな教育はほぼ必要がなかった。彼女は努力を嘲笑うかのように才能を示した。
『桜さんが書いた小説!金賞だったんだってー』
僕には才能がなかった。僕も何度も小説をおくった。だけど結果はいつだって無残だった。諦めなければ、努力を続ければとそんなことを考えながらペンを動かした。
『正直小説は書いたことはなかったわ。運が良かっただけよ』
結局は才能だった。確かに僕だって努力はつづけた、今だって苦手な現文を頑張ってるしあまり読まないジャンルの小説も読んでる。バイトで貯めたお金は全てそれにつぎ込んだ。
でも僕には才能がない。それに比べ彼女には才能がある。彼女とボクではスタートラインが違うのだ。努力では才能には追いつけない、僕はそれを身に染みて味わった。
春「僕にも・・・なんかの才能があるのかな・・・」
僕はそんなことをつぶやき手をポケットにしまって早歩きをした。