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誰にも聞こえずに。
そのはずだった。
男の手が二三子の腕に触れるその寸前。
『いてっ!!』
男は声を上げて手を引っ込める。
咄嗟に痛みのする方に視線を向けると、男のかかとに白いネズミが全力で噛み付いていた。
否、そのむっちりとした丸い尻にはネズミの長い尻尾と全く違う、あるのか無いのか分からないほどの小さな毛の尻尾。
『は?!ハムスター?!なんで?!いででででで!!!』
『…大福丸?』
その白く丸いむっちりとした姿に、背に大福の透けたあんこのごとく薄茶の一筋の毛。まさしく、自宅でカゴの中にいるはずの大福丸そっくりのハムスターであった。
大福丸は男のかかとから歯を離すと、素早く身体を駆け登り頭の上に丸くなって座る。
その途端、ずんっとにぶい音がして、男の足がコンクリートの地面にめり込む。
何と男の頭上の大福丸がむくむくと大きくなっている。もはや大福丸は畳んだ冬布団くらいある。
ついに男は重さにたえきれなくなったのか、地面に倒れて動かなくなった。
その場に固まって動けずにいると、二三子の心の声が今度はちゃんと音になって聞こえてきた。
『なんなんだ、これ…』
ただし、その声の主は、茫然と立ち尽くすアンポン男子先輩だった。