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私と先輩と大福丸の話  作者: 千代丸
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私、小畠二三子は14歳にして、自分にとって無難に生きることは大変に困難であることを悟った。

いや、それ以前の幼少期から、具体的に言うと小学校入学式に、期待と不安でひしめく体育館から逃げ出したくなった時点で、本能的に勘づいていたのだ。

それを気のせいだと、そんなはずは無いと長年無意識下に沈めていたのだ。

認める勇気が無かった。自分が普通以下だということを。

なので、勇敢さという意味では成長したと言えるであろう。


現在中学2年生の私の1日の大半は苦難に満ちている。

朝、小学生の頃から使っている目覚ましのキティちゃんが『おはよー!』と朗らかに起こしてくれる。

対照的に私の顔は今日も1日が始まる予感に陰鬱とした目覚めだ。

私が起きる時間になると、いつも隣に寝ている母親の布団はすでにきっちりと畳まれている。

母子家庭なので母親は働いており朝の始まりも早い。

母は私と違って何事も普通にこなす。

遺伝子の謎だ。


重い身体を引きずって、洗面所で顔を洗って適当に髪をとかす。

私の髪は寝癖というものがつかない。いつも朝から晩までこけしの様に固定されている。

まだ幼き日々は、母がリボンをつけたり編み込みをしたりと、洒落乙なヘアアレンジを楽しんでいたが、成長に伴い朝の自立が課せられる様になってからは、私はお洒落よりも睡眠時間を優先してこの髪型に落ち着き数年が経つ。私が初めてした大人の妥協の選択だ。


冷たくてすべすべした気持ち悪いブラウスと、着た者の生気を奪う呪いのかかったジャンバースカートの制服に着替え、『あ〜、学校ってめんどくさいな』くらいの顔のお面をつけて、食卓に向かう。



『おはよー』

『おはよっ!今日セイキョウの日だからよろしくね!あと夜ご飯準備できなかったからおじや作って食べてね!冷蔵庫のものなんでも食べていいから』


顔を見るなり母はご飯を食べながら一息に喋った。

私はあんまり聞き取れなかったが『うん分かった。』と返す。どうせいつも同じ内容だからだ。


炊飯器から茶碗にお米をよそって、冷蔵庫から納豆のパックを取り出す。

椅子に座ったら納豆を全力でかき混ぜる。昔テレビで300回くらい混ぜた方が美味しいと見てから何となく習慣になった。

白くてふわふわになった納豆を白米にのせて急いで口の中にかきこむ。

お茶で流し込んだら、食器を流しに置いて洗面所に行って歯を磨く。


鏡の中の端っこで母の化粧をしている姿が映る。

『何でいっつも口紅塗るの?』

『歳とると塗らないと顔色が悪く見えるから』

『ふーん。』

私は昔から母の化粧をした顔が好きじゃない。何だか普段より怒っているように見えるからだ。でもそれを伝えたことはない。

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