第一部 第七章 バルトロメウス王の憂鬱
アレクシアの王であるバルトロメウス・ウィリバル・アレクシアは焦っていた。
天候を操れる神器 龍玉も手にした。
クロダ公爵も寝返りさせたはずだった。
だが、クロダ公爵の寝返りは嘘だった。
騙されていたのだ。
そして、轟天の存在。あれほどの破壊力とは想定してなかった。
一撃で一万の兵を失った。
その後、クロダ公爵の裏切りに憤り、力押しで第一陣を潰した為に、すでに、十五万の兵の一割を失ってしまった。
大体、軍は二割から三割の兵を失えば、戦闘は続けれなくなる。
轟天をもう一撃集中させた兵力の所に撃ちこまれたら兵を引かざるを得ない。
エーデルハイトにも轟天の情報が伝わり、南下するのを躊躇しているようだ。
「兵力の集中が出来ない事が、これほど厄介な事だとは」
兵力を集中させれば轟天で消滅させられてしまう。
戦力の集中が出来なくなってしまったのだ。
机の上の盤上にある兵の配置を示した地図を見て、バルトロメウス王のイライラが募る。
「また、今日も補給部隊が襲われました。昨日よりもアレクシアの国内の内側での出来事です」
後詰めの第七軍の将軍であるコンラート将軍がいまいましげな顔をした。
「轟天は使われてないのだな」
「はい」
「何を考えている。どんどんとこの部隊はアレクシアの中央部に向かっているでは無いか。補給線を絶ちたいのだろうが、それにしては日替わりで出鱈目な場所を襲撃してる。これは意味のある作戦なのか? 何よりも轟天は一体どの部隊にあるのか? 」
バルトロメウス王の顔が曇る。
「今調べておりまずが、まだわかりません」
コンラート将軍が答えた。
「敵の第二陣は引きこもったまま動きは無いのだな」
アレクシア軍の第二陣を率いるヴェンツェル将軍を見てバルトロメウス国王は問いただした。
「はい、完全に睨み合いのままになっております」
「むう」
その時、伝令の騎士が王の前に跪いた。
「大変です! 補給の中継点にあるハイデルベルク城が攻撃されました。轟天です! ハイデルベルク城は大破して炎上しております! 守備兵も爆発で大半が殺されたようです! あそこに蓄積した食糧は全部燃えてしまったと思われます! 」
「なんだと!」
コンラート将軍が立ちあがって叫ぶ。
「くそっ、大切な兵糧が……」
バルトロメウス国王が苦々しい顔で呟く。
「補給線が長いので、こちらが焦るのを狙っているのでしょう。しかし、ハイデルベルク城はまずい。あそこは大切な兵糧の集積地です。五千の兵で守らせていたのですが、轟天には守備の兵士の数が意味無いようですな」
ヴェンツェル将軍が深刻な顔をした。
「兵糧が焼かれた事が知れれば、兵にも動揺が広がるでしょうな」
コンラート将軍の顔もさえない。
「仕方あるまい、もはや引くしかあるまい。我々の計画が甘かった。だが、幸い轟天がどこにあるかこれで分かった。轟天をこのままにしておけぬ。あれを潰さねば、我らの未来は無い。全軍、轟天を潰せ! どんな被害が出ても構わん! 必ず潰すのだ! 」
パルメトウス国王は立ち上がって叫んだ。
「「「はっ! 」」」
居並ぶ将軍達が立ちあがって、国王に敬礼する。