第六十三部 第五章 苦言
「いい加減に真面目にやってくれないかな」
もう一人の俺が呆れ果てたように答えた。
「俺はいつだって真面目だ」
「そうなんだよな。だから、困ってるんだが」
「困る事なんて無いじゃん」
「俺はある意味、お前のお目付け役なんだよ」
「え? どゆこと? 」
「お前さんが暴走したりした時にフォローすんのさ。だけど、暴走方向が変だから修正しょうがないんだよね」
「嘘だろ? 二重人格じゃないの? 」
俺が凄くがっかりしたように聞いた。
「二重人格だよ」
「じゃあ、良いじゃん」
「だから、困ると言ってるし」
「もう一つの人格が困るような二重人格はおかしいだろ? 」
「いや、二重人格ってのは、自分の知らない事やってたりもするから、それは普通だろ? 」
「俺なのに、何か真面目すぎておかしい」
「いや、その認識がおかしいだろ? 」
「何故? 」
「お前と一緒に育ってきた人格なんだから、俺みたいに少しは生真面目になってもおかしくないと思うぞ」
「親父があれで、生真面目になるのか? 」
「……なるほど、反論できんな」
「だろう? 」
「むう」
その時、俺ともう一人の俺が光ったような気がした。
「ああ、まずい」
もう一人の俺が結界みたいなのを張って、裸のエルフを閉じ込めた。
「だ、旦那しゃまぁぁあああぁぁぁぁぁ! 」
裸のエルフが結界の中で暴れてる。
「ヒモ・モードと言う事は女なの? この夢魔」
「そうだ」
「困ったもんだな」
「いや、お前だろ? いくら自由度がある能力獲得だからとは言って、ゲロとゲリとヒモって何だよ。おかしいだろ? 」
「いや、俺もそう思う。何故なんだろう」
俺が本気で不思議な顔をした。
「いや、いきなり真面目に言われても困るんだが」
「好きでこんな力使ってんじゃないし」
「お前の聖樹装兵とかは本来はお前自身の甲冑になるように作られた特別あつらえで相手の攻撃を受けて学ぶことにより、永遠に進化する武器なんだ。なのに、何故かごく初期のままで使ってるし、爆龍王ゴウオウだってそばにいるんだ。あいつ程度の爆裂攻撃なんて出来るはずだぞ? 」
「そうなんだ」
「うぉぉおおおぉぃ! 他人事過ぎるだろう! 」
「だって、そもそも普通の人間だしなぁ」
「だから、違うだろ? その考えがブレーキかけてんじゃないのか? 」
「つまり、もっと自由にして良いと……」
俺が目をキラキラさせてもう一人の俺に聞いた。
「いや、待って待って、ちょっともう少し考えよう。何か、悪い方に行きそうだ」
もう一人の俺が慌ててる。
「何でよ」
「いや、自覚無いわけ? 」
「可哀想な巻き込まれ体質だとは自分の事理解してるつもりだ」
「どのへんが? 」
うわぁ、もう一人の俺が凄い顔してる。
何、これ?
自己理解が足りないんじゃないのか?
「いや、お前、どんな自己理解なのよ」
「あくまで、繊細なハートをした可愛い小鳥のような魂をしてるわけだよ」
「どんな、小鳥なんだよ! 」
何という事だ。
自己理解かすら難しいとは!
困ったもんだ。




