第六十二部 第七章 愛しい方へ
夜たき火の周りで親父達も寝床を作って、皆で寝た。
そしたら、誰かに呼ばれたような気がした。
何だろう。
目が覚めたら、島の森の中にいつの間にかいる。
何で?
轟天を抜いて、周りを見回す。
雰囲気が変だ。
霧も立ち込めている。
アオイ達を読んだ方が良いのかもしれないけど、何かが俺を探ってる感じがした。
声を出すのはまずい。
そんな気がして、身をひそめる。
白い手が見える。
巨大な透けている白い手がある。
優に人間に匹敵する大きさだ。
「いない……いない……」
何かを必死に探してるようだ。
何故か、ぞっとした。
何だろう。
「呼んだはずなのに……呼んだはずなのに」
静かに重い声が森の中に響く。
「何だ、これ……」
思わず、小声で呟く。
「誰? 居るのね? 私の愛しい人……」
その声がはっきり言ってメンヘラの声だった。
凄い怖い。
何だ、これ。
許嫁とか母さんが可愛い位だ。
白い手が辺りをかきむしるように次々と現われて、周りの木などを引きちぎる。
無茶苦茶怖い。
「どこなのぉぉぉ? どこなのぉぉぉぉぉぉ? 」
悲鳴のように叫ぶ。
周りの木が裂かれて古い小さな神殿が剥き出しになった。
手はあそこから出てる。
さらに、身を隠す。
異常な力を感じる。
こいつは桁が違う。
「お兄ちゃん? 」
「しまった! 」
ミツキが探しに来た。
白い手がミツキに襲いかかる。
ドンッ!
それをアオイが最大級の攻撃で島ごと真っ二つにして白い手を切断した。
げぇぇえええぇぇぇぇぇぇぇ!
何、この力。
相当深く、島を割り込んでるのが割れた地面の深さを見て分かる。
アオイが本気だ。
「逃げてください! 」
アオイがミツキを抱えると俺に叫んだ。
「お前! あの女どもの臭いがする! 私の愛する方を奪ったあいつらの! 」
声が凄く怖い。
普通じゃない。
恐らく、神殿が相手のアクセスの場所になってるはずだ。
俺が轟天を構える。
アオイが今までに見た事の無い、渾身の乱打攻撃を神殿の周りに加えた。
手が防げないようにする為だろう。
神殿は木と石で出来てるみたいだから、轟天でも行けるはず。
その瞬間、俺を白い手が掴んだ。
「ああああああああ、いた! 愛する貴方がいたぁああぁぁぁぁぁあああああ! 」
その時、もう一人の俺が動いた。
白い手を跳ね飛ばす。
「彼を君にあげるわけにはいかない」
もう一人の俺は轟天に自分の力を乗せてるようだ。
ミツキのもう一人も目を覚ました。
白い手がさらに俺を捕まえようとするのは黄金の剣で次々と切り裂く。
「他所の世界のものが我らに手を出すでない! 」
ミツキが叫ぶ。
もう一人のミツキだが。
「もうすぐ……もうすぐ……そこに着くからね……貴方に会う為に……」
神殿から震えるような最後の声がした。
もう一人の俺の力を乗せた轟天が島の半分を神殿ごと消滅させた。
「やはり、戦いは避けられないか」
もう一人の俺が呟いた後、意識が混濁した。




