第六十一部 第五章 別家
「これは勝ったな」
親父がにっこり笑った。
「ああ」
俺も笑顔だ。
審判が味方なのだ。
勝てないはずがない。
「いやいや、お前等恥ずかしいと思わないのか? 」
剣を持ったクアムが激昂した。
「だって、妻だもの」
俺が言いながらアオイと顔を見合わせて笑う。
「ふざけんなぁぁぁあああああ! 」
「残念ながら、愛の前では無力だぞ」
親父が良い笑顔で答えた。
「ははははははははは、何が愛だ! お前等の母親は俺の言いつけを守る四十六諸侯の一人が襲撃してるはずだ。お前等の母親が無事かどうか理解してるのか? 」
「え? 」
俺が少し焦った。
流石に、四十六諸侯は上位者ゆえに母さんだと荷が重いのでないだろうか。
「ああ、聞いてるぞ。塵になったみたいだがな、俺にいろいろと教えてくれてる御方から倒したからと連絡があった」
「何? 」
親父のセリフで剣を持ったクアムが驚いた。
「母さんの借りは返さんとな」
親父が凄まじい殺気を見せる。
「ぬう」
剣を構えたクアムが怯む。
「これが愛の怒りですね」
アオイが嬉しそうだ。
親父が信じがたいスピードで蜻蛉から猿叫で刀を撃ち込んだ。
いつもの親父の刀では無い。
そうか、知ってたから母さんを襲った奴らが仕掛けて来るのを刀をかえて待ってたのか。
御堂家に伝わる鬼の刀と聞いていたが。
「くはははははははっ! たいしたものだ! だが所詮神族よ! 」
剣を持ったクアムがその剣でその剣戟を受けるだけでなく、強力な障壁をそれに重ねた。
「ええええいっ! 」
狙ってたみたいで、四十六諸侯のゼブが渾身の力で……ルール違反みたいな力で剣を持ったクアムを守る障壁を親父の刀が届く寸前に塵にした。
そして、親父の刀がクアムの剣を両断して心臓まで袈裟で斬り込んだ。
流石の示現流だ。
一撃必殺にすべてをかけて斬り込んだだけはある。
信じがたい、めり込み方だ。
「ぐぼっ、嘘だろ? 」
剣を折られた方のクアムが血を吹きだした。
「悪いな。俺の勝ちだ」
笑いもせずに親父が睨んだ。
「まて、四十六諸侯と上位天使が本気を出すのは禁じられてるはずだ……なぜ、障壁を砕くほどの力を使ったのだ。違反ではないか」
身体から絞り出すようにクアムがアオイを見た。
「すいません。見てませんでした」
アオイがにこっと笑う。
「ば……馬鹿な」
剣が折れたクアムはぼろ布のように甲板に落ちた。
「やったな、親父」
俺が声をかけた。
だが、親父はもう一人の金糸の派手な服を着たクアムに目をやってる。
しかし、そのクアムは薄笑いを浮かべて、剣の折れたクアムの所に行った。
「お前、見捨てやがった……な……」
剣の折れたクアムが金糸の派手な服を着たクアムを睨む。
「ああ、障壁が割れやすい様に、こちらで誘導はしたさ」
派手な服のクアムが笑った。
「ちっ、分かった。食われてやるよ」
剣の折れたクアムが舌打ちして答えた。
派手な服のクアムが笑った。
それは嬉しそうに。




