第七部 第六章 教育
「良いか。何故、お前の守護神が不動明王か分かるか?」
樹老人が俺に向かって説教してる。
「すべてを焼き滅ぼすためですか? 」
俺が答えた。
「違うわ! あの炎は慈悲の火であり知恵の火じゃ! 自分の悪しき心を焼き尽くすための炎じゃぞ! 」
樹老人が呆れたような顔をした。
「では、すでに私の悪しき心は焼き尽くされて、まっさらな心になっていると言う事なんですね」
俺が頷きながら答えた。
「お前、何でそういうとこだけポジティブなん? 」
樹老人が呆れてる。
「ははは、褒められちゃった」
俺が照れくさそうに笑った。
「褒めてないから! 」
「いいか、お前の世界の仏教で言うだろ。三毒と言うものがある。最も根本的な三つの煩悩、すなわち貪・瞋・癡を意味する。むさぼる事、怒り憎む事、愚痴を言う事。これらをお前は克服せねばらん」
「無理です」
「即答だな」
「即答です」
「あちらの世界の方が火力も何も強い。だが、我々の世界にも優れたものがある。それは心を操る事だ」
「え? 向こうの世界でも札束でほっぺをピタピタしたら、いくらでも操れますよ」
「いや、それは欲で釣ってるだけじゃん」
「結果は一緒です」
俺と樹老人が言い合うのを他の皆が見てる。
「平行線で全然進まないね」
クニヒト大佐が欠伸をした。
「人の道と言う理性で語ってんのと、人のサガという欲望で語ってんのと、交わりようが無いわな」
アポリトも呆れてる。
「すいません。横から良いですか? 結局、とりあえず、やらせてみたらどうです? 」
ミツキが提案した。
「しかし、まず心を定めねば、相手の心を操るだけに大変な事になるんだが」
樹老人が厳しい顔をした。
「でも、多分、話しても無理だと思いますよ。私も戦闘進化型になって貰おうといろいろやったんですけど、結局、逃亡特化型になっちゃって」
ミツキがほろ苦そうな顔をした。
「人と反対に行っちゃうのかな? 」
樹老人が困り果てた顔をした。
「反対って言うか独特な方向ですよね」
ミヤビ王女が首を傾げた。
「自由すぎて、皆、ついてけないんですよ」
クニヒト大佐が笑った。
なんか、マジで毒舌が戻ってきてるな。
「なんとか、良いところを伸ばすような感じで出来ませんかね? 」
アオイが提案した。
「とりあえず、それが一番近道だと思いますよ」
ミヤビ王女も続いた。
「困ったなぁ。逆にそれだと間違った方に行くと取り返しがつかないんだけど」
樹老人がため息ついた。
「大丈夫です。ユウキ様なら克服なさると思います」
ムラサキがほほ笑んだ。
「克服は克服するんだけど、どういう克服か怖いな」
クニヒト大佐が突っ込んできた。
心が戻ったら戻ったで五月蠅い奴だな。
「しょうがない。まずはスキルが動くように、お前にきっかけを入れよう」
樹老人が手をかざす。
「え? きっかけって入れるもんなの? 」
俺が驚いて聞いた。
「まあ、お前の願いをかなえやすくするためのものだ」
樹老人の手から金色に光るビー玉くらいの大きさのものが、俺の胸に吸い込まれた。
その時、俺達のいる特等船室のドアが叩かれた。
この船の船長が慌てて入ってきた。
「すいません。空飛ぶエイのモンスターであるスカイマンタが手紙を落として行きました。宛名は救世主へとなってます」
船長がその手紙の筒をさしだした。
「ほら、早く受け取れよ、クニヒト大佐。お呼びだぞ」
俺がクニヒト大佐に手紙の筒を投げた。
「もう、俺、シ〇アじゃないから知らないよ」
クニヒト大佐が手紙の筒を投げ返して来た。
「大佐になったんだし、やらないと」
俺がクニヒト大佐に手紙の筒を押し付けた。
「ふざけんな」
クニヒト大佐が手紙の筒を再度俺に投げる。
俺がさらに投げ返す。
それをミツキが横から受け取った。
「非生産的な事はしないでよ! 」
ミツキが呆れたように言った。
「この嬢ちゃんの方が<終末の子>にふさわしくないか? 」
樹老人が肩を落とした。
今日はいろいろと遅れてすいません。
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