第五十九部 第六章 二宮金次郎激走
炎で燃えさかる山の中を平気でぽてぽてと二宮金次郎が走る。
ワイバーンから矢が居られるが、すべて何かに弾かれる。
これこそが十二使徒の持つ、こちらとあちらの世界のあらゆる武器を阻止する力であった。
二宮金次郎は、そのステータス通り、大学の本を読みながら走ってる。
しかも、燃えるはずの柴をしょいながら、全然無傷だ。
竜騎兵達は何故、燃えないのか?
何故、本を読んでるのか?
武器も何も持ってないので、一体、何がしたいのか分からず不安になっていた。
そして、それは徐々に、この得体のしれない人物に対する恐怖になっていた。
人は理解できないものにこそ、恐怖するのだ。
先陣の騎馬隊がたった一人を阻止するために、突撃した。
それを全く苦にもせず、すれ違ってそのままぽてぽてと二宮金次郎が走る。
追いついて槍で突いても、全く相手にダメージを与えられない上に、そのまま黙々とシェン大帝の本陣に走り続ける。
まさに、恐怖の二宮金次郎だった。
それが突然、止まった。
「この辺りで良いかな? 」
二宮金次郎が本を懐にしまうと手を前にかざした。
凄まじい光の輪が二宮金次郎を中心に広がる。
それは東部の全土に拡がる勢いだった。
そして、それは始まった。
シェン大帝のいる本陣に伝令の兵士が駆け込む。
伝令の兵士は真っ青な顔をしていた。
「どうした? 」
シェン大帝が不安そうに聞いた。
その伝令の兵士は補給部隊のものだったからだ。
まさか、伏兵か?
本陣の皆が震えた。
あの変な男は囮だったのかと。
「伏兵か? 」
グイゼが聞いた。
「いえ、兵糧が! 食糧が! 米や麦が逃げ出しました! 」
伝令の兵士が絞り出すように叫んだ。
「「「「「「は? 」」」」」」
全員が唖然として答えた?
「敵に持ち去られたのか? 」
ルグが聞き直した。
「いえ、突然、足が生えたようになって、全部逃げました」
本陣にうねりのような衝撃が走る。
「はああああ? 兵糧が自分で逃げるわけないだろ! 」
シェン大帝が叫ぶ。
だが、食糧庫も畑になっている野菜や穀物も全部走って逃げていた。
俺達は生きているんだ。
食べられるために生きてるんじゃない。
俺達だって、生きものなんだ。
植物達の生きるための生存本能による魂の叫びのような逃走が一斉に始まっていた。
今回は根菜類だけでなく、すべての植物の食糧がだ。
「待て、大根や人参が反乱を起こしたと言う話があったが、ひょっとしてこれか? 」
ルグが顔を歪ませた。
「だ、大根や人参が反乱を起こしたの? 」
シュエの驚きがハンパじゃない。
「ああ、人間達を棒切れもって襲ったそうだ」
「これをあの男がやってると」
グイゼが呆然としてる。
「こ、こんなのは、こんなのは俺達の世界じゃない! 」
シェン大帝が絶叫した。




