第五十九部 第二章 奇襲
シュエ大帝の前に巨大なリンドブルムが待っている。
古武士のようなリンドブルムで、これがシェン大帝の相棒の雷龍だ。
「すまないな。二千年ぶりかに会ったのに、死地に行くことになりそうだ」
シェン大帝が雷龍に話しかけた。
「何、わしもだいぶ生きたしな。お主と死に別れた時の辛さを考えれば、今、またお主と一緒に再度戦えるのだ。その喜びの方が大きい」
雷龍が優しく笑った。
「ありがとう」
「相手には、あの最強の爆龍王ゴウオウがいると言う。奴と戦うのは無理でも逃げ切るのは任せてくれ」
雷龍が胸を張って答えた。
「ありがとう。本当に心強いよ」
シェン大帝が雷龍を優しくなでた。
「雷龍、頼むね。今度は死ぬなら一緒に彼と死にたい」
グイゼが心から願うように言った。
「私からもお願い。彼と一緒に死にたいのだから、必ず連れて帰ってきてね」
シュエも心から願うように言った。
シェン大帝は病死でまだ三十代なのに亡くなったのだ。
「ああ、今度はともに死ぬと言う約束は果たすよ」
シェン大帝が優しく笑った。
シェン大帝とシュエとグイゼが抱きしめあった。
「泣かせるな」
ルグがシェン大帝に声をかけた。
「すまんな」
「いや、いい。わしも気持ちは分かる。わしも愛弟子と死に別れたままだからな」
「そうか……」
「無理はするなよ」
ルグが元気づけるように笑った。
「あんたにそう言われるとは思わなかったよ」
シェン大帝が笑って雷龍に乗ると飛び立った。
シュエとグイゼが心配そうに見送った。
雷龍は神速でなるリンドブルムの中でもさらに早く、まさに信じがたい速度で空を飛んだ。
また、それに掴まって平気なだけでも、シェン大帝は相当な実力があるのが分かる。
「相変わらず、たいしたもんだな」
シェン大帝が雷龍の速さを褒めたたえた。
「なに、そうでも無いさ」
雷龍も笑って答えた。
これから敵地を襲撃するのだ。
身が引き締まる思いだったのだが、樽を抱えてほろ酔い気分で飛んでる爆龍王ゴウオウを見て状況が変わった。
「ゴウオウだ」
雷龍が警戒するようにシェン大帝に鋭く言った。
「何で、こんな所に? 」
「おんや? 雷龍の小僧じゃねーか! 久しぶりだな! 」
爆龍王ゴウオウが笑って答えた。
「のんきなものだな」
雷龍が訝しげに爆龍王ゴウオウを見た。
「ああ、あいつに会いに来たのか? 相変わらずにのんきにやってるよ」
爆龍王ゴウオウが笑った。
「のんきって……」
シェン大帝が驚いた。
「ああ、あいつら戦も適当だからな」
「はあああ? 」
雷龍も驚く。
「そういや、雪龍のババアがいるぞ」
「え? あの長老のオババさんが? 」
シェン大帝も面識があるのか、驚いた。
「雪龍の婆さんまで味方してるのか! 」
「あ、あああああ。ちょっと、連れてってやるから、自分で判断しろよ」
凄く困った顔で爆龍王ゴウオウが答えた。
「罠か? 」
雷龍が鋭く返事した。
「罠なんかしねぇよ。そんなまともな奴じゃないし」
爆龍王ゴウオウが破顔した。
いやまあ、そうかもしれないとシェン大帝が複雑な顔をした。
とりあえず、爆龍王ゴウオウの先導で言ってみることになった。
「変な奇襲になったな」
シェン大帝が一人呟いた。




