第五十七部 第三章 兄貴
「みなさん、お待ち下さい」
二宮金次郎がついに立ち上がった。
流石に、性格が良いと言うムラサキのお墨付きではある。
「貴方方のような主様の大切な許嫁様が他の方々と殺し合いをするなどとは間違ってます」
きりりとして二宮金次郎が答えた。
勿論、柴はしょったままだが。
「しかし……」
レイナさんが厳しい顔をした。
「とにかく、話し合いをいたしましょう。話しあえば分かるはず」
二宮金次郎さんが必死だ。
良いなぁ。
本当にそうなれば良いんだけど、どうだろうな。
そしたら、問答無用で、まさかのムラサキが二宮金次郎にパイルドライバーを食らわせた。
しかも、ハンパ無い力でやってるので、甲板がへこんでる。
おおおおおおおぃ、あの二宮金次郎を庇ってたお前は何処へ行ったんだ、ムラサキ。
「愛は奪い合いなのよ! 私は完全に女になってそれが分かった! オールオアナッシング! それこそ、王道なのよ! 」
ムラサキが拳を握りしめて叫ぶ。
性格が変わってませんか?
やばい、全部の許嫁達にその火が回っていく。
「こ、殺し合いが避けられないな……」
突き立ったままの二宮金次郎を見て、余計にそう思う。
はっ、そうだ、奴がいるではないか。
あのマゾの孔明が!
「孔明? 孔明はどこだ? 」
俺が叫ぶ。
「とうちゃん、孔明は出かけてるぞ」
艦橋から出入りするドアの陰から、鳳雛が教えてくれだ。
使えねぇぇぇぇ。
何だよ、あいつ、今こそ、お前の出番だろうが。
「待ってくれ! 」
その時、どこかで聞いたような声が響いた。
こ、この声はまさかっ!
船の船体を登ってきて、ばぁっと俺達の前にあの男が現われた。
「ホアンの兄貴ぃぃぃぃ! 」
俺が叫んだ。
目の前にタコの足でまごうこと無きホアンの兄貴がいる。
しかも、太った。
凄い太った。
噂通りと言う事か。
しかし、服装も変わった。
明らかに、純金の装飾品を大量につけている。
わぁぁぁ、お金持ちさんだ。
ホアンさんがセレブの貴賓すら漂う姿で、何故かつけていた愛用のサングラスをすぱりと外した。
「久しぶりだな」
ホアンの兄貴の目が優しい。
満ち足りた男の姿がそこにあった。
本来ならファウロスみたいにケッと言うとこだが、奥様がデスピナのデブ専様だ。
赤ちゃんボーイの俺には何だか親近感が止まらない。
「話し合いに来た。戦うのはやめてくれ。俺の妻達のアマゾネスが、こちらに向かってるガレー船の方は止めている」
ホアンが許嫁達に言った。
流石、歴戦の奥さんは怖いだろうし、それと生活している猛者だ。
許嫁に対しても、少し身震いしながらもちゃんと立っている。
流石、兄貴だ。
「やれやれ、間に合いましたね」
そこに孔明が現われた。
途端に失望感で一杯になる。
こいつの策なら期待は出来ない。
涙が止まんない。




