第五十四部 第五章 ムリエル
目の前に男が立っている。
眩暈が止まらない。
何で、これに化けた?
もう理解不能だ。
「ほら、早く挨拶しなさい」
ムラサキがムリエルとやらに必死で言う。
孔明はちょっと嬉しそうだ。
まさか、マッチポンプじゃあるまいか?
「声をかけてやったらどうだ? 」
親父が俺に良い笑顔で答える。
いや、これは無いわ。
「声をかけたくない」
俺が言うと、ムリエルとやらはびくりとした。
「気持ちは分かるが、せっかく子供の姿で現われてくれたのに」
あの国王が気持ちは分かるとか言う時点で地雷やんけ。
しかも、間違いなく核地雷級だ。
「大体、何で薪しょってんだよ! 」
俺が震えて叫んだ。
「いや、あれは柴ですよ。薪よりも細い雑木の事ですが」
孔明が俺に注意をするように言った。
「薪でも柴でも良いわ! 何をしてんだよ!」
「「いや、勉強してます」」
ムラサキと孔明が抗弁した。
「勉強してますじゃねーよ! お前、二宮金次郎はねーだろうが! 」
目の前に柴しょって本読んでる子供の二宮金次郎がいた。
眩暈が止まらない。
本気で止まらない。
どえらいのが来やがった。
「あ、いえ、植物を大事にしてくださる方をチョイスしたら、この農政家だった二宮金次郎が……」
ムリエル……二宮金次郎がそう言った。
「いや、植物を大事にするけど食べるだろ! 」
「そうなんです。蚩尤と戦うはずの植物達が皆反感持っちゃって……」
「誰が食べられるの分かってて言う事聞くのよ! 」
「そうなんですよね。気が付かなった」
二宮金次郎は頭を掻いた。
本当に地雷が来た。
何でそうなるんだ。
「つまり、あれか、蚩尤と戦わせようとして野菜達に生命を与えたら、そいつらが食べてる人間に反乱を起こしたと言う事か? 」
親父が呆れたように聞いた。
「そうなんです。憎しみって怖いですね」
「いや、俺はお前が怖いよ。とりあえず、別の奴に変われよ! 」
「それが一度決めて人間型になると一年は変えれなくて……」
「はああああぁぁ! 植物を操れるのに、それが反感持って敵に回る姿って事は、全く役に立たないって事だぞ? 」
「いや、柴が燃やせますから」
二宮金次郎は背中の柴を見て笑顔で答えた。
思わず、その場で蹲った。
アホや。
アホがまた増えた。
「何で? 何でなの? 十二使徒ってムラサキとガムビエル以外は、まさかネタ要員なの? 」
「何をおっしゃいますやら、我が君。せいぜい半分ですよ」
「半分もいるのかよ! 」
「いやいや、三分の一くらいです」
ムラサキが必死だ。
三分の一でも多いぞ。
何だこりゃ。
ガムビエルを見た時は凄いのが揃ってると思ったのに、ムラサキはともかく、孔明と二宮金次郎って何だよ。
想像を超えてるわ
「ねえ、樹老人さん。ひょっとして、<終末の子>ってギャグ要員なの? 」
俺が樹老人に聞いた。
「すまん。わしも自信なくなってきた」
消え入るような声で樹老人に言われた。
せつない。
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