第六部 第三章 カザンザキスさんの別荘
ヤマトの王都のだいぶ奥に入った山の中にワイバーンで降りた。
長い事、空を飛んでいたので、すっかりのどの渇いた俺達は、アオイの先導で山の中にあった綺麗な屋敷に向かった。
「まあ、ヤマトの女性が怖いのは知ってるけど、こんな奥地にまで来る意味あるの? 」
俺がアオイに聞いた。
「用心はした方が良いと思います。ここは、一応、私の母の持ち物で、カザンザキスのお爺様が買って管理してくださってるものなので、恐らく安心かと」
「へー」
俺が聞いて感心した。
相変わらず、カザンザキスさんのセンスが良いな。
近くに綺麗な川もあるし、ここなら気持ちも休まりそうだ。
アオイが屋敷のドアノッカーでコンコンとすると、老夫婦が出てきて笑顔で迎えてくれた。
「今日は、ここで休むか」
俺がそう言って、老夫婦の後から出てきた綺麗な女性から、コップに入った水を受け取った。
アオイが怖い顔をして、そのコップを俺の手から叩き落とした。
「貴方? 一体、誰? 」
アオイが凄い剣幕だ。
「いや、こんな子は……」
老夫婦がオロオロした。
「ちっ、ばれたか。せっかく、読みが当たったのに」
綺麗な女性がカツラを取った。
髪をショートにしたボーイッシュな女の子が現われる
「あなたは第四王女のキョウカね! 」
アオイが叫んだ。
え?
王女なの?
「キョウカさん! 」
ミツキが驚いたような顔をする。
「ごめんね。でも、女の戦いは厳しいの」
キョウカがにこっと笑った。
「スキル蜘蛛の糸! 」
俺達の背後で声が上がる。
背後を見るとワイバーンが微細な蜘蛛の糸のようなものでグルグル巻きにされてる。
そこに、セミロングの髪をした可愛い子がいた。
「貴方、第九王女のユイナ? 」
ミツキが唖然とした。
「しまった。足を潰された! 」
アオイが叫ぶ。
「ごめんね。ミツキ。恋は真剣勝負だから」
え?
恋?
水に薬を入れたり、相手がワイバーンを使って飛んで逃げないようするためにスキルでぐるぐる巻きにするのが恋?
「兄弟! 本当に王女なのか? 」
アポリトが驚いた顔をした。
「ミツキの態度を見ると王女で顔見知りみたいだが」
俺もビビってる。
「駄目です。この糸、普通じゃない」
ムラサキが腰の短刀で糸を切ろうとするが切れない。
「この山は私達姉妹で固めてあるわ。今夜から、私達の恋の真剣勝負受けて貰いますから」
キョウカが言いながら俺にウィンクした。
怖いよ。
なんか、さわやかに言ってるけど実際にやる事が全然違うよ。
「こ、これが猛禽か! 」
俺が我慢できずに叫んだ。
「まだ、こんなもんじゃないわ。本当に怖いのはこれから出てくるはず」
アオイが鋭い目をしてあたりを見回した。
「なんか、千人のピラティスとやった時より怖いんだけど」
アポリトの目が泳いでる。
アポリトと義兄弟になってから、初めて見るアポリトの動揺する姿だ。
「やられたわ。これだと、噂の国王の猛禽王女たちが全員いるのね」
アオイが顔を青くした。
「何、その猛禽王女って」
「国王陛下を襲って王妃になった猛禽の母親が、娘たちにやり方を教えてるとは聞いてたんですが」
ムラサキが言った。
何なの、それ。
ちょっと、怖すぎなんですけど。
「まずいですね。多分、ここを狙ってくると思いますよ」
アオイが不安そうだ。
「そ、そうだ。兄弟。スキル索敵だ。山に居る連中が分かるはず」
俺がアポリトに動揺しながら聞いた。
「それです。ここは山ごとお爺様が買ったものなので、一般の人はいないはず」
「分かった、調べてみよう。スキル索敵」
アポリトが索敵で山の中を探る。
「ほげぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ! 」
アポリトが変な声を出した。
「どうした? 兄弟? 」
「し、信じられん。千人はいるぞ。しかも、遠まわしで囲まれてる」
「はあああああああああああ? どゆこと? 」
「あちこちの貴族の娘の猛禽に声をかけたのね。全員で貪り食う気だわ」
アオイが指の爪を悔しそうに噛んだ。
怖えよ。
マジで怖ええよ。
「とりあえず、かわりのワイバーンを呼んだわ。ここは急いで逃げましょう」
ミツキが皆を見回して言った。