第六部 第二章 猛禽
「嫌な予感がしますね」
アオイがヤマト行きの高速帆船の甲板の上で言った。
「分かるわ。なんとなく女の勘ね」
ミツキが続いた。
何故だろう。こないだムラサキの一言で空気が止まるような感覚があってから、妙に俺に対するアオイやミツキやムラサキの他の女の子からのガードが凄くなった。
進撃の巨人の初期のミカサに囲まれてる感じだろうか。
「とりあえず、港に行くのは危険ね。ワイバーンで山側に侵入しましょう」
アオイが皆を見回した。
「やっぱり、この胸騒ぎはまずい奴ですかね」
ムラサキが答えた。
「警戒しすぎじゃないの? 」
俺が言うと、アポリトも頷いた。
「別に命を狙われる訳でもあるまい。なぁ、兄弟」
「いえ、それより危険な事があるかも」
アオイが心配そうだ。
「あ、まさか」
ムラサキが目を見開いた。
「え? あれ都市伝説じゃないの? 」
ミツキが首を傾げた。
「「いや、現実です」」
アオイとムラサキが同時に答えた。
「でも、王族の、しかも救世主に猛禽とか使う? 」
ミツキが疑わしげに聞いた。
「いえ、王族こそ猛禽の巣ですから」
アオイが殺気立った顔をした。
「ええ? そうなの? 」
ミツキが疑わしげな目をした。
「猛禽は普段、笑顔で優しく甲斐甲斐しく相手に尽くすんですよ。そこで油断したところで、くあああぁぁっと襲う訳です」
ムラサキが肉食動物みたいなしぐさをした。
「何それ? 」
俺が不思議そうに聞いた。
「俺もヤマトの話は知らないな」
アポリトも首を傾げる。
「このパターンだと、あの国王とお父様なら、そろそろ猛禽を使うはず」
アオイが目を細くして断言した。
「何なの? その猛禽て? 」
俺がたまりかねて聞いた。
「ヤマトの狙った男性を襲って自らを孕ませる事で、無理矢理相手に結婚させる、恐ろしい女の人達の総称ですよ」
ムラサキが答えた。
はあああああああああああ?
なんじゃ、それ?
「基本、父も国王様も公爵様もヤマトの根底にあるのは死なばもろともですからね。絶対にユウキ様を自分達の境遇に巻き込もうとするはず。猛禽にあの人達は良いようにされたから、あの老化がある訳で。私はいろいろと調べたんです。つまり、妻が五人程度なら、王族でも結構若いんですよ」
アオイが真剣な目をしてる。
「え? そうなの? 」
「はい。公爵様以上は全員妻が十五人以上いますからね」
「十五人? 」
「な、何の話だ? 」
アポリトが困ったように聞いてきた。
「兄弟。こないだあったヤマトの王族と公爵達に会ったろ? あれ、いくつくらいに見える? 」
俺がアポリトに聞いた。
「うむ。六十歳越えかな。七十歳にはならんと思うが」
「あれ、四十前後なんだ」
「はあああああああああああああああああ? ど、どゆこと? 」
「猛禽たちに若さを吸い取られるとああなるんです」
ムラサキが悲しそうな顔をした。
「なんか、回復魔法で毎日全員相手するって言ってたからな 」
俺がアポリトに言った。
「え? 全員? それは無茶じゃないか? 他所の国はせいぜい妻は多くて四人だぞ? それに、全員の相手を毎日するわけでもない」
アポリトがかなり驚いたようだ。
「ヤマトは毎日全員。しかも一人三回が最低です」
「一人三回! 」
ええ、国王は毎日六十以上やってんの?
それで血が出たの言ってんだ。
怖い国だ。
「そろそろ、なんですよね。こちらが油断したと見て、猛禽が動き出すの。特に、お父様とか国王が逆に煽りそうで」
「確か、ヤマトも子供出来たら男は強制結婚だったよな。兄弟」
アポリトの顔が固まってる。
「ああ、間違いない」
俺も身震いして答えた。
「とりあえず、このまま港につくのは危険です。まずはワイバーンで移動しましょう」
アオイに言われて、カクカクとからくり人形のように俺とアポリトは頷くのであった。
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