第四十三部 第七章 離脱
脱出艇は普通はオールとか簡単なモーターなのだが、そこは祝融さんだ。
モンスタークラスのエンジンを積んでいて、モーターボートより、急角度で船首を跳ね上げながら離脱を開始した。
皆、訓練されてるだけあって、軽空母も他の船も凄いスピードで現場から散開して撤退する。
「あまり、母親も変わんなくない?」
クニヒト大佐が突っ込んで来た。
「いや、違うな」
親父が笑った。
「ブチ切れてるとは言え、ちゃんと俺達の脱出をさせて、鈴を逃がさないように結界を張ってるよ」
俺が沈んでいく船を見て答えた。
良く見ると分かるが白い半透明の魔法陣のようなものがドーム状に沈んでいく船を取り囲んでいる。
「たいしたものですね。鈴が何処にいるか最初に確認して、重層的な魔法陣で囲んでます」
「それなら、あの船を沈める必要は無いのでは?」
ヨシアキ大佐が聞いてきた。
そこはスルーする。
「ああ、やって、被害を最小限にして沈めてるのさ」
親父が良い笑顔だ。
「いや、ですから、沈める必要は無いのでは?」
「まだまだ、君は若いようだな」
祝融さんが笑った。
「まあ、そうかも知れませんが」
ヨシアキ大佐が訝しげに答えた。
「ああやって、船とかに当たって貰わないと、俺達がかわりにボコボコにされるだろう? 」
「さすが、息子なだけあってよく分かってるな」
祝融さんが俺の返事に、いい笑顔だ。
「ええええ? そんな理由ですか? 」
ヨシアキ大佐が呆れてる。
「いや、大事な事だぞ。当たられたら痛いじゃ無いか」
祝融さんが何を言うのだと言う感じで答えた。
「そっくりじゃん」
クニヒト大佐が呆れて突っ込んで来た。
「いや、全然違うぞ。俺達なら自分達の安全しか考えないもの」
俺が笑って答えた。
「他人なんか知らんもんな」
親父もいい笑顔だ。
「大体、他人なんか逃げる時のおとりとか、盾とかしか思わないしな」
俺もさらに、いい笑顔だ。
「それは当たり前の事だよな」
国王もその通りだと頷いた。
「まあ、普通、そうですよね」
宰相が答えると、国王とイジュウイン大公と俺と親父で大笑いした。
「……いや、わしはそこまでは思わないが」
祝融さんがちょっと顔が引き攣ってる。
「「「「「え? 」」」」」
俺をはじめ、親父や国王や宰相やイジュウイン大公にとっては祝融さんの発言が意外だ。
むう、この辺はちょっと違うのかもしれんな。
母さんの結界の中で大爆発が起こった。
結界であるので周りに被害は無い。
俺達もああいうのを目指さないといけないかもしれない。
「周りに迷惑をかけ無いか……」
俺が感心したように呟いた。
「まあ、俺達には無理だな」
親父が笑いながら言った。
「うん。そう思う」
素直に笑顔で頷いた。
正直、普段着でエベレストに登るくらい難しい。
無理だな。
断言できる。
だって、にんげんだもの。