第四十二部 第十六章 激闘のはじまり
「ヨルムンガンド」
抑揚のない声でシャーロットが呼んだ。
空間にガラスに出来るようなヒビが出て、それが砕けると同時に前足のある巨大な蛇のようなヨルムンガンドが現われた。
「ち、ちょっと、何をしているの? 」
母さんの動揺がハンパ無い。
「私は十四歳の時からユウキ様と婚約して、ずっとお慕いしてました。その私ですら見てないのに、ちょっとこないだお情けをいただいたからとはいえ、その前世の姿を見てるとか言うババアにはおしおきをしてあげないと」
抑揚のない声でシャーロットがニッコリ笑った。
「そうよね。私だって随分長い間お慕いしてたのに……おかしいよね……」
エレネが手を上げると全身に金色の鎧を纏った。
さらに、空間が割れるように動くと、二十メートルはあるかと思われる銀色のフクロウが次々と現れた。
アテネはフクロウを使役していたな。
アテネの血筋だもなんな。
これで、こないだ強気だったんだ。
などと現実逃避で考えてたりする。
「本当に、困っちゃうな」
レイナさんが言いながら立ち上がった。
まさにあのルイ叔母さんに匹敵する殺気だ。
まるで、ルイ叔母さんがそこにいるかのようだ。
条件反射でカルロス一世が土下座したまま固まっている。
キョウカさんもユイナもミオもミヤビ王女まで立ち上がる。
「わらわも見ておらぬと言うのに、あのオババ様がのぅ」
龍女さんが立ちあがると、手を軽く上げた。
チュインンン! っという音とともに島の左側に衛星軌道上から強力なビームが発せられて、島の左側に三十キロに渡って水蒸気の爆煙が上がる。
「ふむ、蒼穹船の衛星分岐をこちらにいくつか送っておいてよかった。オババのしつけは中々大変じゃろうしの」
龍女さんの地下水のように流れる殺気がハンパ無い。
「私も強襲型の蒼穹船を持って来て良かった」
燐女さんがニッコリ笑うと雲間から強襲型の蒼穹船が十機現われた。
あんなに持って来てたのか。
強襲型の蒼穹船の攻撃で母さんの別荘の軽空母などある所が、鬼のようにビーム攻撃を受けて爆発した。
「ち、ちょっと、ちょっと、あそこには核ミサイルが……どうすんのよ、馬鹿息子! 」
母さんが動揺しまくって俺を見た。
「ここは、少し様子を見ましよう」
俺がソファーに座りながら、縦長の大きくて高級そうな樫の木の一木造のテーブルの上で腕を組んで母さんに笑った。
「賛成だな」
親父が深く頷いた。
「そんな、場合じゃないでしょう! 」
母さんが激昂する。
気持ちは分かる。
母さんの気持ちは良く分かるのだが、すでに腰が抜けて立てなかったりする。
さあ、どうしょう。
「お義母さん、腰が抜けて立てないんだって」
カガが俺を指差して言った。
くっ、何で恥ずかしい事言っちゃうの?
母さんの顔が歪む。
「何だ、お前もか? 」
親父が凄く良い笑顔だ。
親父も腰が抜けて動けないらしい。
「はっはっは、わしもじゃ」
祝融さんが豪快に笑う。
素晴らしい。
お爺さんと呼べそう。
それを聞いて、母さんがその場に突っ伏した。




