第四十部 第十章 賄賂
「こ、これは? 」
ベトールの目が泳いでる。
黄金に動揺してると言うよりは、国王の行動が理解不能で動揺しているのだろう。
「ははは、単なる気持ちでございます。ご笑納ください」
国王が優しい笑顔だ。
「ちょっと、お父さん」
レイナが顔を真っ赤にして国王に囁く。
「大丈夫だ。上位天使さんもあれほど金色に輝いているのだ。黄金が嫌いなはずがない」
国王が断言した。
すげぇや。
何と言う論理。
果たして、上位天使たる存在に人間が賄賂を渡すなど言う事をしたのは人類史上最初の事かもしれない。
「お、お前……」
まさしく憤怒の表情でベトールが震えだす。
「貴方様のような高貴な御方なら分かるはずです」
「何がだ? 」
ベトールが忌々しげに聞いた。
「金持ち喧嘩せずと言うこの哲学を」
国王が言った途端、全員がはっ? と言う顔をした。
さっきまで褒めていたシャーロットやエレネも呆然としている。
まあ、天使を金持ち呼ばわりとか、次元を超えた行動は理解できないだろうな。
「我が財とかそういうものに心を動かされるとでも思ったか! 」
「ですから、これはただの挨拶です。心に満ちるものがあるものは喧嘩などはしないのです」
国王がさらに続ける。
すげぇな詭弁もここまで来るとすがすがしい。
「よろしいですか? これは、あくまでご挨拶であります。ただ、何をご挨拶で差し上げようかと思った時に、やはりお金と言うものは何でも叶うものでござますので、こうなった次第であります」
国王が揉み手をしている。
何と言う俗物。
「「奥さん以外はな」」
小声で囁く宰相とイジュウイン大公の声が辛い。
なぜ、そこでオチをつけるんだか……。
他人事じゃないのか、カルロス一世も目頭を押さえてる。
親父もミツキがいるからか変な動きは見せなかったが、俺は一瞬目が泳いだのを見逃さなかった。
俺も多分、一瞬目が泳いだと思う。
「くだらん。上位天使たる我がそのようなものに心を動かされるか」
吐き捨てるようにベトールが憤怒の表情を浮かべる。
「では、ヤマトに巨大なオリンピアの天使様の神殿を設けると言うのはどうです」
国王がにやりと笑った。
「何? 」
これは意表を突いたようだ。
「うまい……」
今まで無言だったアオイが明らかに褒めてる。
なるほど、神様だけど上位天使だから祭られることは無い。
だから、寂しいに違いない。
そんな、心を突いた訳か。
あきらかにベトールが心を動かされたような顔をしている。
「神殿だと? 」
ベトールから憤怒の表情が消える。
「ヤマトはあちらの世界の日本と同じで、八百万の神ですので、外の神様もお迎えできるのですよ」
国王の笑みがとろける様だ。
今、国王は悪代官にお金を渡す悪徳商人を超えたと言って良い。
凄い悪徳商人オーラだ。
「む、むう。だがな我だけの考えではそれを受け入れる訳には」
ベトールが考え込んでいる。
「はははは、分かっております。ご相談くださいませ。でも、もし皆様が賛成してくださるなら、勿論ですが、我々と敵対しないとおっしゃってくださるなら、貴方様だけでもお祭りしますよ」
国王がにやりと笑って答えた。
悪魔がいる。
ここに悪魔がいる。
相手を分断する気だ。
何と言う恐ろしい。
今まで思ったこと無かったけど、この国王は怖いわ。




