第三十七部 第八章 一騎打ち
「おい、久しいな、今はアオイと名乗っているのか」
白い巨大なオオカミがイージス艦に二キロくらい先で止まるとアオイに話しかけた。
「わしはこんな次元の<結末の時>だのチンケな話には興味は無かったが、<終末の子>とやらがあの男の生まれ変わりだと言うではないか。それならば別だ」
カザンザキスさんが白いオオカミがアオイを名指ししたので、目を見開いて凄い顔をしている。
「貴方とは遺恨は無い筈では無いですか」
アオイが答えた。
「遺恨など必要では無いわ。あの最強の男が産まれ変わると言うのなら、武で生きるものなら立ち合いたいと思うだろうよ」
白い巨大なオオカミがにやりと笑った。
おやおや、何と言う迷惑な前世さんでしょう。
最強ですと?
単に卑怯なだけなんですが……。
「さ、最強なのか? 」
カルロス一世が俺に囁いた。
「最凶なら頷けるんだけど」
クニヒト大佐も苦い顔だ。
「すいません。私は非力な男なんで、何かの間違いでは無いでしょうか」
俺が大声で答えた。
アオイが少し悲しい顔をした。
アオイはがっかりするだろうが、俺はこんなもんだ。
「ははははははははははははははは、やはり、本物臭いな。オリンピアの天使どもがいきり立つのも分かる」
白いオオカミが楽しそうに笑った。
おや、どういう事でしょう。
「旦那様、それは前世のあの方の口癖で……」
アオイの顔が悲しいと言うより、困った顔だったのか?
えええええええええ?
どんな武神だよ。
「どうだ。一騎打ちといこう。今は<終末の子>だったな。お主と戦うのはわしの夢だった」
白いオオカミがうっとりと言う。
「ゲリとかゲロとか無理だよね。トラウマも逆にやばそうだし」
小声でアオイとかに聞いた。
「その手はあのクラスの魔の大物になると効き目は無いかと」
アオイが囁くように答えた。
「轟天はどうだろうか? 」
「豆鉄砲じゃないかな? 」
ゼブが答えた。
何と言う無理ゲー。
「ヒモモードを使うしかないだろう」
親父がポンと言う感じで肩に手をのせて言った。
「いやいや、一騎打ちでヒモモード? 」
俺が動揺して答えた。
「馬鹿野郎。五対一とかで戦ってるのに正義の味方って言ってる奴が一杯いるんだぞ」
親父の目が熱い。
「そのとおりです。戦隊物なら、当たり前の事ですよ」
ルイス中尉も熱い目をしている。
「大丈夫、君の為に死ぬなら、僕らは本望だから」
ゼブが優しく笑って言った。
おーい。
余計出来ないよ。
俺の心の中のほんの少し残った、耳垢みたいな良心が駄目だと叫ぶじゃないか。
まして、上位の魔の物のゼブですら、死を覚悟するしかないなんて。
「しょうがない。ここは変身しかないだろう」
俺が呟いた。
「むう、お前がそこまで言うなら、やってみろ」
親父が渋く頷いた。
「ピンチで発揮される真の力とは王道ですね」
ルイス中尉の目がキラキラしてる。
「ちょっと待て、いきなりのそんなのに皆の人生預けるの? 」
カルロス一世の声が焦りのせいか裏返ってる。
「大丈夫、死なばもろともだ」
俺がカルロス一世を見て力強く言った。
「「「それ違う」」」
カルロス一世とかクニヒト大佐が一斉に頭を抱えて呟いた。




