第三十七部 第七章 顎
大いなる口。
それは真っ白い巨大なオオカミのような姿をしていた。
でかさで言うと、コンチュエの戦艦よりでかい。
それが地平線から、水面を走ってくる。
使徒ガムビエルが光輪を放つが、オオカミの前に巨大な顎の骨のようなものが現われて、それに噛み砕かれる。
「コンチュエの艦艇と第一軍団とかは横に逃げた方が良いです」
アオイが矢継ぎ早に言った。
だがココドウリロの士気が高いせいか、それを自分らへの侮りとみたか、第一軍団の方が聖樹装兵に着装すると前に出た。
「ちょっと、叔父さん」
俺がカルロス一世に言った。
「ああ、引いた方が良いんだが……」
カルロス一世がアリリオさんに振り返る。
何か、少し遠慮してるようだ。
「第一軍団は勇猛さが命なので、ここで引くのは出来ません。私も参加してきます」
アリリオさんがそう言うと聖樹装兵を着装して空を飛んだ。
「この場合、やめた方が良いんじゃないかな」
俺が横のカルロス一世をつついた。
「いや、そう思うんだが、何しろ血気盛んな連中だしなぁ。指揮官としても最後の最後で相手の喉笛に食らいつくのが仕事の第一軍団なんだ。死を恐れない猛将達に引けとは言いにくい」
カルロス一世も困った顔をした。
面子があるのか、それを見てコンチュエの第一艦隊も前に出る。
「グォクイ将軍」
慌てて、グォクイ将軍に呼びかけた。
「いや、援助して貰うのに後ろに逃げるのは出来ません」
苦い顔でグォクイ将軍も俺を見た。
何で悪い方向へ行くのか。
「アオイさんが言ってんだから、やばいんだろうになぁ」
カルロス一世が本当に困った顔をしている。
第一軍団は聖樹装兵を着装し、前側の連中が一斉に対地対艦ライフルを構えた。
「うちはどうしょうか? 」
アナスタシアが聞いてきた。
「いや、引いといて。あれ、無茶苦茶強い」
俺が焦ったように答えた。
ニコライさんはそれを聞いて、自分のとこのフリゲート艦をちょっと散開させて、こちらのイージス艦から離れた。
「撃てっ! 」
アリリオさんが叫ぶとともに、第一軍団の聖樹装兵から一斉に対地対艦ライフルが発射される。
しかし、それは白いオオカミの前に次々と現れた顎に着弾を阻止される。
その顎は骨でできた巨大な鮫のような牙の並んだ口で、高さが五メートルから十メートルもある、それがいくつも白いオオカミの前に現われる。
「何? あれ? 」
クニヒト大佐が唖然としている。
それと同時に、まだ数キロ離れているにも関わらず、突然にこちらに現われて、第一艦隊の艦船の数隻と、ココドウリロの船の一部が噛み千切られる。
聖樹装兵で両足を噛み千切られたものや、第一軍団の船を乗せたワニが真っ二つにされて、海面に血の渦が起こる。
俺達のイージス艦にも顎が現われて噛み千切ろうとしたが、ガムビエルの足で攻撃されて、それは阻止された。
ガムビエルがいくつも光輪を出すが、それはすべて顎によって阻止される。
「何、あれ? 」
俺も思わず呟いた。
「あれが大いなる口ですよ」
ゼブが再度、横で答えてくれた。
いや、それはアオイから聞いてんだけど。
やばくね?




