第三十六部 第四章 ドラゴンのヒモ
御礼だろうか。
それとも貢いでるつもりなのだろうか。
山海の珍味が目の前に並ぶ。
ドラゴネットさんの一頭が火を吹いてたき火を作ってくれると、その後、魚や肉も絶妙な火加減で焼いてくれる。
「はい。あーん」
言いながら、黒髪の美少女が俺に焼けたものを口に運んでくれる。
一口食べるとでりぃしゃす。
無茶苦茶うまい。
熟成してないが、その分焼き加減が絶妙なのだ。
「あ、あの。ドラゴン達がですね……」
俺が言いよどむ。
ドラゴンのNTRとか笑えない。
「ああ、旦那様は魅力的だから、少しくらいのつまみ食いは仕方ないですよ」
黒髪の美少女がくすりと笑った。
「いや、手は出して無いけど」
「も、もてあそんだのですか? 我々を……」
白いドラゴンが見るからにショックを受けてる。
おいおい、何でそうなる。
ドラゴネット達もショックを受けているようだ。
俺にどうしろと。
「大丈夫、旦那様は責任感の強い御方ですから」
黒髪の美少女が皆に言った。
すると、白いドラゴンをはじめドラゴネットがぱーっと明るくなったような感じになった。
種族が違いすぎて、良く分からないけど。
「さあ、美味しく召し上がってくださいませ」
黒い髪の美少女がそういって、焼いた肉などをあーんで食べさせる。
うまいんだけど、ちょっと、つらい。
何がつらいかというと、少し離れた崖の陰から、オスらしいドラゴネットが敵意の塊のような目で並んで睨んでる。
つまり、俺はメスのドラゴネットを根こそぎ妻にしたと言いたいのだろうか。
「次は魚の卵です」
言いながら、木のヘラですくって黒髪の少女がイクラを口に運ぶ。
「こ、これは? 」
「周辺に魚の卵が一杯ありまして、後で鳥の卵焼きもございますよ」
黒髪の少女が笑顔だ。
つまり、俺の力で魚や鳥が産卵しまくった訳ね。
俺をオスとして見て産んだのだろうから、凄く複雑。
そのうちにドラゴネット達が踊りを始めた。
竜宮城でタイやヒラメが躍るようなものかと思えば、向こうの崖の方で見てるオスのドラゴネットの目が修羅の目になっている。
こ、これはドラゴネットの求愛の踊りなんじゃないだろうか。
胃が痛い。
ドラゴネットの楽園に現われた、人間のヒモ。
ドラゴンのヒモと言う事か。
これ命がけじゃね?
などと思っていれば、背後に凄まじい殺気が。
懐かしい殺気だけど、この場面では最悪だ。
黒髪の美少女は悲鳴を上げるし、流石のドラゴネットのメスは蜘蛛の子を散らすように消えた。
白いドラゴンだけ、さらに顔を蒼白にしたようにそこに佇んでいた。
「随分、お楽しみのようで」
アオイの凍りつくような声がした。
怖くて後ろが見れません。




