第三十四部 第八章 前世の俺?
「でも、俺は記憶が戻って無いし、今の俺では何もできませんよ。そんな一騎打ちは嫌でしょ」
俺が必死にフルに話しかける。
俺が話すたびに光ってはいるようだが、俺のヒモモードでは効かないのか?
フルは鬼の表情を変えない。
「そうだ、その後に貴様と会った時も、貴様は同じような事を言って、私を煙に巻いた。だがな、私も前回のだまし討ちに腹が立っていたから、仲間と共に嬲り殺しにする為に、よろよろしてる貴様を追跡した。そしたら、貴様は囮で私の部下は全滅だ」
フルが怒りのあまり口から舌を噛み千切ったのか血がつぃと流れる。
「お、お前、今と全然変わらないじゃないか! 」
突込みの血が騒いだのか、クニヒト大佐が壁の陰から叫んだ。
よ、余計な事を……。
「ほら、ほらほらほらほら、仲間が言ってるぞぅ? 今の貴様と変わらないんだってぇぇ? 」
歌うようにフルが俺を舌なめずりするような顔で見た。
普通の人間ならションベン漏らして、恐怖で動けなくなるところだが、正直、アオイとかと同じレベルの怖さなんで実は平気です。
アオイとのつきあいが、俺の少年ジャンプで言う修行だったのか。
「ひひひひひひ、私の仲間達の怨敵、私の生涯の怨敵、そんな貴様が元の地位にしれっと戻るだと? そんなの許すわけがないだろうが、ひひひひひひひ」
フルさん、壊れてる。
前世だか知らんが、俺はそんな酷い事をしたのか?
悲しい前世だな。
「まあ、落ち着きましょう。過去を振り返るのはやめて未来を見るべきです」
俺が笑顔で言った。
凄まじい光が出るが、フルさんが逆に逆上なさってる。
「はひひひひひ、前世でも言ったな。仲間を次々と滅ぼし、我らオリンピアの天使を地獄の底に叩き落とし、我らが渾身の報復に出た時に貴様は確かに言った! 時間も殆ど経っていないのに我らに貴様はそれを言ったのだ! ひひひひひひひ、その恨みが分かるか! 」
相当な美人さんなのに怒りのあまり口から血とよだれが出てる。
何てことだ。
本当に凄い美人なのに。
「お前、とにかく謝れよ。いつものように無意識に煽ってんじゃないか」
カルロス一世が声を潜めて向こうから囁く。
「そうですよ。このままじゃヤバイです」
ヨシアキ大佐も必死だ。
樹老人も精霊の入ったメイスン中尉も流石に上位天使では頭が上がらないのだろう、完全に空気だ。
辺りの空間がフルの怒りの波動できしみだす。
アオイがブチ切れたカマキリモードに匹敵する怖さがそこにあった。
仕方あるまい。
「美人さんが台無しだぞっ」
俺がてへっと言う感じで笑って言った。
空間がびきりと割れる音がした。
「それだ! 相手を褒め続けろ! どうやら話を聞いてる限りチョロそうだ! 」
親父が大声で親指立てて俺を褒めたたえるように叫んだ。
横でクニヒト大佐とヨシアキ大佐が泡を吹きだした。
おや、カニさんの真似ですか?
カルロス一世が痙攣してる。
アリリオさんが必死でカルロス一世を支えた。
樹老人も精霊の入ったメイスン中尉も痙攣してる。
ルイス中尉は柱の陰から、まさかの家政婦は見た状態である。
気絶してないから根性あるんだな。
「はははひひひはひはひははひははひははははははははははははははははひひひ! 」
何かフルさんが凄い顔してる。
皆と同じような激しい痙攣もしてる。
困ったなぁ。




