第四部 第九章 決戦
百人のスキル結界を使う人間が籠とともにヤマトから来た。
籠も百以上ある。
中に史上最強のモンスター達が入ってるのだ。
カザンザキスさんからもスキル結界を使う人間が集められた。
参加したスキル結界使いの半分が、そのスキルを使いながら、前回の晩餐会に参加した全員が集まった場所で籠が開かれた。
凄い厳重な結界だ。
「「「「こ、これが最強のモンスターなのか! 」」」」
ヤマトの王族は真剣な顔をしてたが、カザンザキスさんなどパトリダ側の人間は引きつった顔してる。
そこには六匹の狸顔の豆柴の子供そっくりのモンスターがいた。
「どこが、最強なんだ? 」
カザンザキスさんが呆れたような顔をした。
「これはですね。私の祖父がこちらに転生する前にあちらの世界で言う豆柴と言う犬の動物を飼っていたそうなんですよ。で、特殊なスキル新品種交配を持っていた祖父は、どうしても豆柴を作りたくて死に物狂いでいろいろなモンスターを交配させたらしいのです」
俺がカザンザキスさんに答えた。
「それで、これを作ったと言うのか? 」
「ええ。ただ、こちらの世界ではご存知でしょうが、基本、可愛い系のモンスターはその可愛さを利用して、相手に近づいて寄生するかのように、食事などの世話させます。これは、その力が普通の可愛い系モンスターの千倍ちかくあるみたいです」
「千倍! 」
「はい。可愛がって可愛がって、脳内麻薬がバクバク出て、もう、この豆柴モドキがいないと生きていけなくなるみたいです。この豆柴モドキの為に他人がなんかしてくれたら、もう、その人を百パーセント信じちゃうし、豆柴モドキを見てるだけで脳内麻薬ドクドクですから、ずーっと見て可愛がるだけの人間になっちゃうそうなんです」
「聞いてみるとヤバイな」
「ええ。結界が無いと見てるだけでとりつかれますからね。それに、庇護力を猛烈に掻き立てられますから、この豆柴モドキに誰かが万が一危害を加えたりしようとすれば、その相手を殺そうとするそうです」
「え? 殺そうとするの? 」
「はい。しかも、それが彼らにとっての正義になるみたいです」
過激な自然保護団体や動物愛護協会の十倍くらいやばい奴と言う事だろう。
「こ、怖いな」
カザンザキスさんが震える
「でも、それだけじゃありません。残された資料によると、一日に体重の半分も飯を食う上に、なんと、寿命が恐らく十年以上あるんみたいなんですが、死ぬまで子供産むようです。しかも、二か月に四匹くらい」
「はああああああああああ」
「ネズミ算であっという間に増えます。でも、駆除なんかできません。可愛いし、うまく媚を売る上に、とりつかれた奴が殺しに来ますから」
「だから、聖樹様に封印して貰ってたんだ」
「これを夜のうちに次々と彼らのタンカーへ籠で置いていきます。もう、一目見たらイチコロですよ」
「なるほどな。」
カザンザキスさんが頷いた。
「恐らく、彼らの調査態度や装備からすると、帰る方法があるのでしょう。でないと、あの装備だけで来るとは思えませんから。後は豆柴モドキを連れて帰ってしまえば、あちらは地獄絵図になります」
「恐ろしい男だな。君は」
カザンザキスさんが言うと国王と宰相などヤマトの人間が全員頷いた。
「ですが、まだです。ここでひと手間かけます」
「え? まだやるの? 」
国王が驚いた。
「はい。まず、シーサーペントを使って、タンカー近辺の魚をタンカーに近寄れないようにします。さらに、ワイバーンなどを使い、アオイとミツキの能力を使って先回りして果物や食べれる植物を刈り取ったり、食べれそうな動物やモンスターを逃がしたりして、彼らのタンカーから出てきた人間が食糧を調達できないようにします。たまに、夜にシーサーペントにまるで海底から伸びてきた突起のようにソナーに見える様に、タンカーの底をコツコツ突かせて、タンカーが海岸に近づいたら、座礁するかもと言う恐怖も与えましょう」
「なるほど、兄弟。タンカーごと兵糧攻めにするつもりだな」
「その通りだ。兄弟。そして、彼らが豆柴モドキに食糧を与え飢えきった時に、我々が食糧を彼らに渡すのです。豆柴モドキに使ってくださいと」
「一体、何のために? 」
カザンザキスさんが聞いてきた。
「さっきの豆柴モドキにとりつかれた連中の特徴を思い出してください。豆柴モドキに一緒に餌をくれる人間は絶対的に良い人だと思っちゃうんですよ。つまり、こちらを攻めようとする連中の中に、絶対的に我らを味方だと思い続ける人間が出来るわけです」
「流石だ。兄弟! 」
アポリトが頷いた。
「これで、彼らのこちらに対する攻撃速度は鈍り、その間に豆柴モドキがあちらを侵略していくのです」
俺が皆を見た。
やはり、皆がドン引いてる。
「ほら、やっぱりドン引いてるじゃん」
「心配するな。兄弟。俺達は引いて無いから」
アポリトが言うと、窓の外から覗いていたリヴァィアが引いて無いからと言う感じでウォォォォォォンと鳴いた。
「私は良い考えだと思いますよ」
にっこりアオイか笑って言うとムラサキも頷いた。
それを見てたカザンザキスさんが少し悲しそうだ。
さらにヤマトに娘をやるんじゃなかったって思ってるのかもしれない。
「心配するな。全部、クニヒト少佐がやった事になるんだから」
宰相が笑顔だ。
「そうだぞ、クニヒト少佐が全部引き受けるからな」
国王もさらに良い笑顔だ。
「戦いは非常さ。そのくらいのことは考えてある」
シ〇アの扮装したクニヒト少佐がまたシ〇アのセリフを言った。
なんだか、不憫だ。
「ごめんね。貴方が悪いんじゃなくて、ヤマトの血だと思う」
ミヤビ王女が物凄く申し訳なさそうだ。
「はああああああ! ヤマトの神族はぁぁぁぁぁぁ……」
ミツキが、がっくりと肩を落とした。
自覚したのだろう。
せつないな。
なんだよ、このヤマトの神族って。
早速、夜のうちにワイバーンを使ってタンカーにそっと籠の蓋が開くように置いた。
我々は用心に結界を幾重も張ったレイナさんのスキル遠隔視で見ている。
果たして彼らは、あの豆柴モドキをどうするか。
アメリカが忠犬ハチ公を元にした映画をアメリカでやった時に、ハチ公の子供時代をなぜか柴犬がやって、アメリカなどでも柴犬は大流行してたはず。
そのだいぶ前に柴犬を海外で飼いだした人は、例えば、イギリスなんかだと狐と間違われて、近隣の家からクレーム受けたりとか大変だったみたいだが、今は違う。
皆がレイナさんの作る画面に息をのむように見守る中、普通なら警戒するはずの乗組員数人が、とろけるような顔をして豆柴モドキを抱えて連れて行った。
それも仕方ない。
クーンと鳴いてうるうるとした目で小刻みに震えて、寒いとお腹がすいたをアピール。
結界が効いているはずのこちらでも、震えるようなあざとさだ。
これは、行けると確信した。
が、次の日に事態が変わった。
乗組員達は次々豆柴モドキの周りに集まって世話している。
もう、デレデレだ。
だが、なぜだろう、いきなり数匹が産気づく。
早くね?
乗組員達が慌てて、出産の手伝いをはじめた。
すぐに可愛い豆柴モドキの子供が産まれた。
犬も安産系だが、さらに安産系なのだろう。
しかも、一匹につき六匹か七匹産んでる。
その可愛い赤ちゃんの姿に乗組員達はデレデレだ。
「なんか、産まれるの早くね? ついでに、数が多いんだけど」
俺が国王に言うと国王が目を逸らす。
「おい! 」
俺が国王に突っ込んだ。
「また、産気づいたんだけど」
カザンザキスさんが焦ってる。
国王がさらに目を逸らす。
「ど、どういう事よ! 」
ミヤビ王女が国王に詰め寄った。
「実は、親父がどうしても豆柴モドキが処分されるの嫌で、さらにとりつかれた連中の反対もあって、仕方なしに封印した時に、親父が後の世の人に豆柴モドキを処分されたら嫌だから、ちょっとオブラートに包んで資料残してくれって言われて……」
「はあああああ? じゃあ、実際はどうなの? 」
俺が国王に聞いた。
「ば、倍くらいかな? 増え方……」
「「「「「「えええええええええええ? 」」」」」
どうすんだそんなもの。
「実は、聖樹様の力が遠いんで弱くなってきていて、今、持ってきて封印してる他の籠の中が……」
レイナさんが遠慮がちに言った。
「はああああああ? 」
急遽、持ってきた全部の籠を夜にタンカーに置いてきた。
もう、すでに、豆柴モドキの魅力にボロボロの彼等は、喜んでこれを受け入れた。
凄い勢いでタンカー内の食糧が減ってるみたいで、なんか、呪いの様に何か言ってる。
早速、スキル翻訳を持ってる奴にその言葉を翻訳させた。
「後、一週間だから。後、一週間で向こうに帰れるから」
皆が言いながら豆柴モドキの食事を作ってる。
これ、やばいんじゃね?
豆柴モドキを山に返すとかの選択は彼らには完全に無い。
手放したくないのだろう。
しかも、全員働かなくなってる。
何しにこちらに来たのか分からない状態だ。
ずっと、自分達はお腹をすかしながらも、豆柴モドキを見てニコニコしてるのだ。
怖っ!
怖すぎる!
また、豆柴モドキもあざとい。
お腹がすいた乗組員を案じるような雰囲気を見せて食事を貰っても遠慮がちにする。
えぐい、これはえぐい。
急遽作戦をかえて、大量の食糧をタンカーに帆船で偶然会って同情した風にして渡す事にした事にした。
豆柴モドキが凄い勢いで増えてたからだ。
まさか、豆柴モドキを放して数日でタンカーの食糧を食い尽くすと思わなかった。
やばすぎる。