第三十一部 第十章 エピローグ
「<終末の子>の進化が始りました」
巨大な部屋の薄暗い中で、ぽつりと椅子に一人で座っている男に誰かが話しかけた。
そのワンフロアにたった椅子が一つあり、椅子に座る彼以外に誰一人といない筈なのに、彼以外の声がした後、部屋にざわめきが拡がる。
「選ばれた進化の方向は? 天界の予想では未来知だったが」
椅子の男が聞いた。
だが、返事は来ない。
「選ばれた進化の方向はどうだったのだ? 」
再度椅子の男が聞いた。
だが、返事をするはずのものは躊躇してるようだ。
「心配するな。彼の意外性が物凄いのは逃げに特化した時点で分かっている。さらに、逃げを選択したのか? 」
「……違います」
恐る恐ると返事をするものが答えた。
「では、何だ、少々の変な進化の方向なら、私は驚かないぞ。私と彼との天界での付き合いは長いのだから。我が友は天界の上に居る時から、皆を驚かす男だったしな」
凄く柔らかく優しい笑顔で椅子の男が言った。
「……言ってよろしいのでしょうか」
「だから、気にするなと言ってるだろう」
椅子の男が言った。
「ヒモです」
「は? 」
椅子の男がしばらく、虚を突かれたように黙った。
「ヒモを選択しました」
「え? それはロープでは無いよな? 」
「はい、女性を自分の性的魅力などで惹きつけて、いろいろと女性にお世話になる方のです」
誰もが息を飲んだのが分かった。
言葉だけのもの達も固まったように黙った。
誰もが息を飲んで、椅子に座る男を見てるようだ。
時間が止まったような重さが突然、椅子の男の哄笑によって破られた。
「はははははははははははは、嘘だろ。まさか、そこまでこちらの予想を超えて来るとは! 流石は我が友だ! 偉大なる御方を唯一驚かせる男なだけはある。流石だ」
椅子の男の笑いが止まらない。
「……よろしいのでしょうか? これは進化と言うよりは退化ではないかと思うのですが」
言葉だけの存在が恐る恐る聞いた。
「大丈夫だ。すべては偉大なる御方の手の中だ。しかし、久しぶりに笑わせて貰った。彼は転生しても相変わらずだ」
椅子の男の哄笑は止まらない。
本当に本当に椅子の男は愉快そうに笑った。




