第三十部 第九章 ヒモモード発動
むう、やはりこうなるか。
渡り鳥が急に怯えたような飛び方になる。
イージス艦のあった方から、まるで真っ黒な雷雲が向かってくるかのような凄まじい気配を感じる。
寝ていた許嫁達が起きたのだ。
おいおい、しかも、これは困った。
どうも、向こうの許嫁達も俺のヒモの力で強化されるらしい。
今までのパワーでは無い。
エレネもそれを感じて流石に焦っているようだ。
「旦那様、もう少しで我々の艦艇に着きますから、待っててください」
エレネがそんな中でも俺に真赤になって、微笑みながら言った。
「いや、君を巻き込むのは良くない。俺をここに置いて行くといい」
俺が優しい笑顔で言った。
本音は多分、後ろの気配からするとエレネも強いけど勝てないと思う。
連合軍だもの。
その証拠に使徒ガムビエルが双方を許嫁認定した様で、動きが動揺してる。
「心配しないでください。例え、貴方と一緒に死ぬ事になっても、私は後悔しません」
少し涙を流しながらエレネが答えた。
おや、俺も死ぬ事になっている。
心中かしら?
意外とメンヘラ系なのかな。
向こうの世界に居た頃の俺なら、相手がメンヘラだったらドン引く所だが、アオイ達に鍛えられたせいで逆に愛おしく感じる。
やっぱり、俺、壊れてるよね。
目の前の海にリヴァイアの猛爆攻撃が来た。
凄まじい爆発音とともに、前方から津波のような波が来る。
モーターボートが津波で異様に揺れた。
停船しろと命令してるみたいだな。
「ふふふふ、そんな事しても無駄よ。旦那様は撃てないくせに」
空元気とかで無く、肉食獣の笑顔でエレナが言った。
ああ、本当に母さん似だ。
親父がドン引くはずだ。
冷静な現状把握と獰猛な戦闘能力、どちらも良く似てる。
問題は、俺の許嫁の大半が同じもの持ってんだよね。
「いや、一度引いて、再度、俺を奪うと言うのはどうだろうか? 」
許嫁達のここぞと見せる獰猛さを知ってるだけに、流石にエレナさんでも引いた方が良いぞと思う。
「いえ。こんな所でこの程度で貴方を諦めるなら死んだ方がマシです」
柔らかく微笑んで、エレナさんが俺に答えた。
あ、なんかこの人も特殊能力持ってるわ。
それは相当ヤバイ奴なんだな。
これは困った。
それが分かってしまう、自分が怖い。
と、モーターボートが止まる。
そして、持ち上げられた。
見ると、ヨルムンガンドだ。
そう言えば、手がついてたな。
「くっ、何故、ヨルムンガンドが! 」
エレネが叫んだ。
「エレネ、大人しくしなさい」
ヨルムンガンドの背にシャーロットがいた。
「貴方、裏切ったのね? 」
「ふ、私達の旦那様を攫っておいてって……嘘っ! 」
シャーロットが俺を見て顔を真っ赤にして絶句した。
「は? 」
俺が素で変な声を出す。
「旦那様、こんな……こんな……これ……NTRの前段階なのかしら。旦那様が愛おしすぎて止まらない」
シャーロットがそうやって意味不明な事を言うと痙攣したように蹲った。
エレネがそれをじっと見ている。
「は! 隙を見せたな! 」
超低空でワイパーンが飛んできて、レイナさんとアンナさんが俺を攫おうとモーターボートに飛びこんで来たのだが、俺を見てヘナヘナと崩れ落ちた。
「嘘! 旦那様が! 旦那様が魅力的過ぎて動けない! 」
「は? 」
俺が素でびびる。
「貴様ら、私と旦那様の愛の船にぃぃぃぃぃ! 」
エレナが叫んだ。
「まあまあ、喧嘩を止めよう。皆で仲良くしょうよ」
我ながらヒモのような言葉だが仕方なしに言った。
[ヒモモード発動! ]
は?
力が欲しいかと同じ声で言われた。
「「はい、分かりました。旦那様がおっしゃるようにします」」
レイナさんとアンナさんが目をハートのようにしながらビクンビクンと身体を疼かせながら、甘ったるく答えた。
「だだだだだ、旦那様が……そう……おっしゃるなら……」
エレナさんは抵抗してるようだが、それでも、最後は俯いて耳たぶまで真っ赤にして答えた。
シャーロットがモーターボートに飛び付くと、何かエレネさんにチクリと刺していきなり眠らせた。
「だ、旦那しゃま! こ、これで、わたひもNTRができましゅ」
もうトロトロで見ていられない様な目をハートにした顔で俺を見てシャーロットが笑った。
旦那しゃま、旦那しゃまと、とろけるような声で言われながら、ガチで眩暈がしてる。
何これ、マジでエロゲの能力じゃん。
そんな中、襟首をズィとアオイに持ち上げられた。
アオイがとろけそうな顔をしている。
ああ、駄目だこりゃ。