第三十部 第八章 エレネ逃走
「さあ、祐樹様は私と来てください」
エレネが俺に抱きついてきた。
って、動けない。
何だ、この力。
「ご安心を、貴方の生活はすべて私が見ます」
エレネが頬を染めながら笑った。
「いや、ちょっと、それは……」
って言ったのに、すでにエレネさん聞いてない。
「待て! 彼は私のものだ! 」
カガが叫んだ。
「「「「「えええ? 」」」」」
全員が唖然とする。
「 な、何で、私はこんな事を言ったんだ……」
言ったカガ本人が動揺してる。
「は? 」
エレネが殺気立った。
「伏せろ! 」
親父が全員に叫んだ。
エレネが左手を振っただけで、光が迸って、部屋の壁が左から右に両断される。
「さあ、祐樹様行きましょう」
エレネの目がハートだ。
「くっ、待て」
カガが手をかざす。
しかし、それはエレネの一振りでカガが壁に叩きこまれる。
「待て! 逆らうな! エレネの力が強化されてる! 」
親父が短く叫んだ。
「ど、どういう事です? 」
横で今まで無言だったスコット中佐が親父に聞いた。
「多分、多分だが、うちの息子のヒモの力でエレネの力が強化されてる。でないと、いくらなんでもカガを一撃で押し込めるのは無理だ」
親父が皆に警告した。
「まあ、ヒモって女性を働かすものだからね」
クニヒト大佐が横で冷静に答えた。
洒落になりません。
「追って来たら、殺します」
エレネが言うと俺を抱きかかえたまま、船室を飛び降りた。
何と恐ろしい事に俺がエレネにお姫様抱っこされてだったりする。
イージス艦の横にモーターボートが横付けしてあって、それにエレネが俺とともに飛び乗るとモーターボートを急発進させた。
ガムビエルがエレネ攻撃するかと思えば、ゆっくりと足を動かしながらモーターボートについて来てる。
「え? すでにエレネをガムビエルも嫁認定してんの? 」
って小声で言った。
それを聞いたエレネの顔が花が咲くように笑顔になった。
「私、絶対、絶対、貴方を幸せにしてみせますから」
エレネが錯乱したみたいに顔を真っ赤にして俺に笑った。
このヒモの力はひょっとしないでも相当ヤバイのでは……。
俺に惚れたものは俺に絶対の献身を示す。
そして、それが俺のヒモの力で強化され、さらに強くなる。
しかも、俺は何もしなくても良いと言うのだ。
自分の身を守るどころか、ご飯の用意や家事どころか、働かなくても良いと言う。
守るものがすべてを用意すると言う。
まさしくヒモの中のヒモ。
恐るべし<終末の子>の力だ。
本当に恐ろしいのは、このままだと生きていくのが凄く楽になってしまうと喜んでしまっている俺の心だ。
どうしょう。




