第二十八・五部 第七章 実食
皆がすでに薄暗い中に、車座になって座ってる。
もう、夜が近い。
すでに気分は闇鍋である。
何だろう、この緊張感。
最前線で戦うより、全身が総毛立つ。
それぞれのお碗になみなみとアオイとミツキの鍋から中身がお玉でそそがれた。
皆が誰から食べるか互いにけん制し合ってる。
「食べないんですか? 」
アオイが俺を見て聞いた。
トドメをありがとうございます。
アオイとミツキが見守る中、仕方なしに口に運ぶ。
とりあえず、スープを飲む。
本音言うと、太ももの内側とかにスープを塗って炎症が出るかどうか確認してから飲みたいが無理だ。
もし、偶然と言う形でやったとしても、恐らくミツキの方が気が付く。
むう、死ぬなら仕方なし。
啜った。
苦い。
とろりとして苦い。
だが、懐かしいと言うか、なんだこれ?
「これ、中将湯の味がする」
俺が言った。
「中将湯ってあの漢方のか」
親父が聞いた。
子供の時、隣のおばちゃんが子供みたいに可愛がってくれて、何度か飲ませて貰った事がある。
「ええええっ? 」
アオイとミツキが驚いた。
味見しろよ。
俺が腹痛とか起こさなかったばかりに、皆も飲んだ。
「苦いけど、何だろう。この身体に効きそうな味は……」
ヨシアキ大佐も味わいながら言った。
「本当だ。ヤマトにも漢方ってあるけど、良く似た味だな」
クニヒト大佐も同じように感想を言った。
「カニモドキとエビモドキには無い味だよね。やはり、鮫頭の龍の鱗の味なんだろうか? 」
ダグダ師匠が味わいながら答えた。
ちなみに許嫁は誰も飲んでない。
「ちょっと、調べてみようか」
カガが手を当てて見てる。
カガが驚いたように目を見開いた。
「あれ? 驚いた。本当に薬効がある。しかも、身体に良いはず」
カガが皆を見回した。
「一体、何の薬効なんだ」
親父が聞いた。
「えーと、滋養強壮、肉体疲労、産後にも良いけど、子作りにも良いかも」
などとカガが言った途端、許嫁が全員一気に飲み始めた。
ええええええええええ?
「本当に大丈夫なのか? 」
「ああ、間違いない。子作りは特に男の方に飲ますと良いかもしんない」
カガが余計な事を言う。
ほげぇぇぇぇ。
いきなり、アオイとミツキとが俺の顔を抑えた。
ムラサキが器と何故か漏斗を持って立っている。
そ、その漏斗は何なの?
ムラサキがグイと俺の口に漏斗を差し込むと、龍女さんが鍋を持って漏斗にスープを注ぎ始めた。
「こ、これはフォアグラか! 」
親父が喜んでる。
ふざけんな。
皆も俺の姿を憐れみの入った柔らかい目線でまったりと見てる。
こいつら、最悪。
「もがもがもがもが」
俺が慌てて許嫁達に言った。
「待ちなさい、何か言いたいみたいだけど? 」
流石にダグダ師匠が許嫁を止めてくれた。
龍女さんが注ぐのをやめて、ムラサキがしぶしぶ漏斗を外した。
「げほげほ。待ちなさい、まだパトリダは先だし、今飲んでも意味が無い。とりあえず、パトリダについてからだな……」
と俺が言ったら、クニヒト大佐が向こうの方を指差してる。
「パトリダじゃね? 」
おいおいふざけんな。
それを聞いて、再度漏斗が俺の口に差し込まれた。
延々とスープを注がれて、気が遠くなった。
死ぬ、死んでまう。