第二十八・五部 第六章 龍コク
「一体、何を使ったんだ? 」
親父が貼りついた笑顔で聞いた。
「ええ、実はじゃーん」
ミツキが三十センチ以上ある大きな鱗を見せた。
「は? 」
皆が唖然とした。
「あの鮫の龍の鱗でーす」
ミツキが屈託のない笑顔を見せた。
「あれを圧力鍋と溶解スキルを併用して溶かして、スープのベースにしてみました」
アオイが横で解説する。
「な、なぜ、鱗を……」
俺が愕然として聞いた。
「こないだ、ドラゴンの活造りが好評だったんで」
ミツキがニッコリ笑う。
にしても、鱗だと?
溶解スキルも使ったって、何かそんなのあったのか?
とりあえず、龍の鱗が溶けるのが凄い。
「こ、鯉こくからの連想か」
横で親父が震えたように答えた。
「ピンポーン」
ミツキが笑った。
「そうか、鯉って滝登りすると龍になると言うからな。昔、家族で食べた事があったからか」
親父が妙な笑顔だ。
おかしい。
何か考えてるのか?
さっきまでの暗さが無くなった。
「妊婦さんや授乳の時に鯉こくは良いと聞くからな。これは俺より、息子と許嫁の皆で食べるといい」
親父が満面の笑みを浮かべた。
汚っ!
卑怯すぎる!
「そうか。それなら、俺もやめとこう。甥の子供の為に必要だしな」
カルロス一世も嬉しそうに言った。
「いずれ国王になられる方の王子の為の食事を食べるわけにはいきませんな」
ヨシアキ大佐が笑顔で続いた。
汚い!
こ、こいつら、俺に全部押し付ける気か!
「兄弟の為か。仕方ないよな」
アポリトまで続いた。
うわぁうわぁ!
最悪だ!
「僕も遠慮するよ」
カガがこちらの心を読んでるのか、くすりと笑って言った。
くぅぅぅぅうううぅぅぅ。
「ふふふ、大丈夫ですよ。いっぱい作りましたから」
アオイが笑った。
「まだ向こうに大鍋で二杯あるから」
ミツキも笑顔で言った。
「こんなに私達で食べれませんし、存分に食べてくださいませ」
アオイが笑顔で答えた。
男全員がムンクの叫びのような顔をしている。
「どうかしましたか? 」
アオイが笑顔で言ったので、全員が顔を激しく左右に振った。
「多分、一回だけで食べれないから、明日は鍋の楽しみの雑炊にして食べようよ」
ミツキが皆に言ってニッコリ笑った。
皆の顔が笑顔だが、目が死んでる。
「ほら、スープが鱗が溶けたせいでトロトロなの」
ミツキが言いながら鍋をお玉でかき混ぜた。
鯉の鱗はゼラチン質だからだそうなんだが、龍はどうなんだろうな。
と、思いつつ、見てたら、エビやらカニやらがお玉でかき回されてる。
「あれ? 持ってきた食材にエビとかカニとかいた? 」
「実は、イージス艦が沈没した部分で海水が残ってるとこにエビとかカニとかいたんだよね」
ミツキが自慢げに言った。
しかし、良く見るとエビとかカニの形が少し変。
「なんだろう。俺は漁師とかと関係無いから知らないだけかもしれないけど、見た事も無いエビとカニだな」
ヨシアキ大佐が言った。
「今のはカニモドキとエビモドキだと思う」
ダグダ師匠が言った。
「カニモドキとエビモドキって食べれるの? 」
クニヒト大佐が聞いた。
「食べれるけど……」
ダグダ師匠がその後、言葉を呑み込んだ。
まずいんだって全員の頭に浮かぶ。
「味見はしたんだよね? 」
カガがアオイとミツキに聞いた。
そしたら、二人が笑顔で顔を左右に振った。
なんでやねん。
皆、凄い顔をしてる。