第二十六部 第十章 生弓生矢
「貴様ら! もう許さん! 」
ペルソナに支配された人魚姫が叫んだ。
「ちっ、やれやれ、勿体ないんだがな」
親父が言いながら、ポケットから矢じりを一個出した。
「何? それ? 」
俺が聞いた。
「出雲の神宝。生弓生矢の矢じり」
親父が笑って答えた。
「生弓生矢だと? 」
ペルソナに支配されてる人魚姫が眉を吊り上げる。
「メイヴについてる魔払い用にいくつか持ってきたんだ」
親父が笑いながら答えた。
「でも、それ矢じりだけだよね」
「何、心配するな。こうするだけだ」
親父が矢じりを起点に構えると光り輝く弓と矢がそれに付随して現われる。
「とりあえず、魔を払うならこれが一番良いかと思ってさ」
親父がその光り輝く弓を引いて、ペルソナに支配された人魚姫に構えて矢を射た。
「はっ、そんなもの効かないね」
ペルソナに支配された人魚姫が笑って答えた。
「どうかな? 」
親父が矢を射た後、にやりと笑う。
巨大な魚の群れが矢を遮るようにペルソナに支配されている人魚姫の前で跳ねた。
しかし、矢はそれをすりぬけて、そのままペルソナに支配された人魚の胸に刺さる。
「何だと! 」
言った後、人魚姫から分離させられたように巨大な仮面が現われる。
人魚姫では無く、その仮面に矢は刺さっている。
「馬鹿な! 」
その巨大な仮面が叫んだ後、ひび割れたようにくだけた。
「「「「「おおおおおおお」」」」」
皆が驚きの声を上げた。
嘘だろ。
これじゃあ、親父が主人公じゃないか。
何でだ!
美味しいとこ持ってかれたぁぁぁぁ!
と思ってたら、心を読んだのかカガが凄い顔して俺を見てる。
「まあ、こんなもんだ」
親父がふっと笑った。
くそう、カッコいい。
何て言う事だ。
こうなれば二重人格様にお願いするしかあるまい。
ああ、二重人格様、今こそ、私に降臨を……。
凄い顔をしてたカガが首を左右に振るとため息ついた。
あぅ。
ペルソナが討ち取られると、何かつきものが落ちたように人魚姫が崩れ落ちた。
当然、魚たちもいなくなり、海に沈み始めた。
それを親父が海に飛びこんで、潜って迎えに行った。
俺も飛びこもうとしたら、アオイとミツキがメスカマキリの目で肩を掴んで首を左右に振った。
あぅ、でも、俺、良いとこ無しだし……。
親父が人魚姫を抱えて船にロープを投げて貰って帰ってくると、麗を呼んだ。
「祝融さんを呼んで、彼女を連れて行って貰ってくれ」
「え? 何で、こちらにいるって知ってるんですか? 」
「ふっ、あの爺さんとは、母ちゃんに一緒に膝蹴り食らった仲だからな」
親父がふっと笑って呟いた。
むぅ、台無し。
さっきまでの許嫁達のお義父様素敵モードが消えてしまった。
「「すいません。恥ずかしいんですけど」」
ミツキと麗がハモった。
「これで、ペルソナも倒せることがはっきりしたわけですか? 」
カルロス一世が聞いた。
「いや、分霊には効いても、本体は無理だろうな」
親父が難しそうに答えた。
「じゃあ、どうするの? 」
ミツキが聞いた。
「うちの麒麟児に任せるさ」
親父が笑いながら俺に言った。
「え? 」
「相手をさらに抉る必殺技が必要だな」
「むぅ、必殺技だと」
国王と宰相とイジュウイン大公の目がきらめいた。
「しかし、すでに、トラウマと下痢とゲロはあるし、それ以外に人の心を抉るものとは一体何があるのかな」
「いや、普通に、相手を倒す技を考えれば良いんじゃないか? 」
カガが呆れて言った。
「相手を倒す技ですか? 」
俺が悩んだ。
「あれしか思い出さんな」
「俺も一つだけだね」
「「膝カックン」」
親父と俺がハモった。
膝カックンとは相手の背後に立ち、自分の膝を曲げ、相手の膝を押し当てて曲げ、相手を躓かせようとする必殺技の事である。
「何でなんだよ! 」
カガさんがブチ切れた。