第二十六部 第六章 ヤマト王家の神髄
「なぜ、人魚姫を名指しで? 」
俺が不思議そうに国王に聞いた。
「いや、それがあの人魚姫、沿岸の魚を全部引き連れてるみたいで、漁師さんが魚を捕れなくて困ってるんだ」
国王が答えた。
「ええええ? 」
「我が国にとって漁業はタンパク質の供給源として大きく、魚が駄目になると、肉の値段も上がるし大変なんだ」
国王がほとほと困ってるようだ。
「分かりました。とりあえず、<終末の子>でなくなったのですから、それを皆に堂々と公開し、パトリダに商人として帰ろうと思います。そうすれば相手も諦めて元の世界に帰るかも」
「また、役目から逃げるのか? 」
樹老人が愚痴った。
「シュウジ。息子くらいちゃんと育てろよ」
カガが怒ってる。
「心配するな。とりあえず逃げても、その後は何とかなると教えてある。いなくて困る人間などいないと」
シュウジが渋く笑った。
「げ、元凶じゃないか」
「マジか」
カルロス一世が頭を抱える。
「知ってますか、蜜蜂とかは八割はサボって、残りの二割は必死になって働いて、実質はその二割が巣の生活を支えるのです。そこで、実験でその働いてる二割を除いて見ると、あら不思議、サボってた八割の中から二割の働く奴が出来て巣は維持されるのです。つまり、何とかなるんですよ」
俺が胸を張った。
「そのとおりだ」
親父が拍手した。
「駄目駄目じゃの。この親子」
樹老人が呆れ果てたようにため息ついた。
「と言う事で、僕ががいなくても<終末の子>は誰かが何とかしてくれるはずなんです。人魚姫も同じですよ」
俺がさらに胸を張って答えた。
「何と言うやる気の無い救世主だ」
カガが呆れたように頭を抱えた。
「これが所謂あるがまま生きると言う御仏の道なのです」
俺が厳かに祈った。
「やべぇ、俺、ひょっとして麒麟児を育てちゃったか? 」
親父がうるうるしてる。
「あるがままと言うが逃げてるじゃないか」
樹老人が怒った。
「「だって、にんげんだもの」」
俺と親父が笑顔で言った。
「むう、まさにヤマト国王家のエキスが濃縮されたような親子だ」
国王が頷きながら感動した。
「凄い一族だな」
アポリトが横で呟いた。
そこにいきなり扉が開いて、レイナさんが先頭に宰相と他の許嫁全員が入ってきた。
「話は私達も宰相に聞きました。旦那様、漁師たちの為に、人魚姫を撃退に行きましょう」
レイナさんが言った。
「分かった。ほっとけないしね」
俺が頷いた。
横で、樹老人とカガとカルロス一世とアポリトとヨシアキ大佐とその部下が唖然とする。
「親父も手伝ってくれるよね」
少し脅すようにミツキが親父に聞いた。
「勿論だとも」
親父も笑顔で答えた。
「え、さっきまでの話は何処に……」
カガが唖然とした。
「むう、まさに、ヤマトを体現する長いものには巻かれろじゃな」
国王がサイトウ公爵と深く深く頷く。
「やばいと思えば、あるがままに意見を変える。これこそ、ヤマト王家の神髄」
国王が目をさらに目をうるうるさせた。
「むぅ、素晴らしい、水は流れるように形を変える。相手によって、行く方向を自在に変える。これぞ、まさにヤマトの奥義だ」
サイトウ公爵も目から涙を流す。
「格好良い事言ってるけど、いきあたりばったりじゃん」
カルロス一世が頭を抱える。
「いつも、思うけど、凄い一族だよね」
ダグダ師匠は笑ってる。
「とりあえず、この一族が駄目なのは良く分かったよ」
カガが凄い顔で言った。




