第二十四部 第九章 宰相
「凄い怖いんですけど」
俺がこちらに向かって走ってくる市松人形を見て思わず愚痴って呟いた。
「夜なら、誰でも悲鳴をあげるよね」
ミツキも唖然としてる。
「近づけちゃ駄目。鈴の能力の仲介をする奴があの市松人形の中にいるはずだから、三百メートル以内ほどで厄介で無いけど、大変な事になる」
恋が叫んだ。
チートすぎる。
実質、仲介があれば距離関係無いじゃん。
そしたら、近づいてくる市松人形が次々と燃え出した。
「いい加減、君達で何とかしてよ。手伝うつもりではあるけど、別に僕は全面的にやるつもりは無いんだし」
カガが手をかざして市松人形を焼き払った。
しかし、燃えながらも市松人形の速度は落ちない。
やべー、燃えてる市松人形怖い。
「ったく、厄介な。燃え尽きろ! 」
カガが叫ぶとともに、市松人形がさらに燃えて灰になった。
「あぁぁぁあぁぁぁぁぁあああああぁああああああ! 」
イージス艦から拡声器を通した子供のような絶叫が聞こえる。
「おーい、女性の声だった魔人より、小さい女の子の声で叫ばれる方が怖いんだけど」
カルロス一世が真っ青だ。
いや、俺も真っ青なんですけど。
無茶苦茶怖い。
「ここにおいては相手が女性だとは言ってられませんね」
アオイが宣言した。
「やるしか無いわよ! 」
ミツキも同意した。
「親父いいか? 」
俺が親父に聞いた。
親父が土気色で頷いた。
「よし、リヴァイア、猛爆攻撃で……え? 」
俺が唖然として前を見た。
そこに、市松人形に引き摺られる宰相の姿が見える。
宰相が悲鳴を上げてる。
「嘘だろ」
俺が愕然とした。
「そういや、あいつ、港の再開発で今日港を見回ると言ってたな」
親父も脂汗を流してる。
「人質か」
カルロス一世が吐き捨てるような顔をした。
「よくもよくも、やってくれたな。おまえたちのちちおやをころされたくなければこうふくしろ。こうふくしないなら、おまえたちのちちおやをなぶりものにしてやる。きりきざんでやる。ずたずたにしてやる」
子供の声が震えてる。
「まずいな」
俺が脂汗を出しながら呟いた。
「しょうがないですね」
アオイがふっとため息をついた。
「お父さん、今までありがとう」
ミオが悲しい顔で笑った。
「「「は? 」」」
剣呑な雰囲気に俺と親父とカルロス一世が唖然とした声を漏らす。
「お父様の命は無駄にはしません」
アオイがメラメラと目を燃やしてイージス艦の方を睨んだ。
「お父さんの分まで、私、幸せになるから。絶対に幸せになるから」
ミオが目を潤ませてる。
「え? それでいいの? 」
俺がアオイとミオに聞いたら、普通に頷かれた。
「ええええええ? 」
親父がドン引いてる。
「リヴァィア、あの船を燃やしなさい」
アオイがリヴァィアに言った。
「お父さん、本当に本当に今までありがとう」
ミオが泣いたままだ。
カルロス一世とアポリトとクニヒト大佐は固まったままだ。
リヴァィアがしゅんと火箭をイージス艦に飛ばした。
が、それは、何と、船から湧いて出た大量の市松人形に壁を作られて防がれた。
市松人形の壁で大爆発が起こり、イージス艦もうちの船も巨大な爆風で吹き飛ばされた。
「くっ、市松人形で防ぐなんて」
アオイが舌打ちした。
「……なんか、君の嫁さん達も凄くやばいんですけど」
カガが憐れみを含んだ目で俺を見た。
それに合わせてアポリトもクニヒト大佐もカルロス一世と親父までも憐れみの目で見てくる。
そういう目で見るの止めて欲しいんですけど!




