第二十三部 第九章 仲間の愛
「え? 二重人格ってどっちが起きたの? 」
親父が奇妙な事を俺とミツキに聞いた。
「え? 私の方だけど」
ミツキが驚いて答えた。
「マジか。思ってたより早いな」
親父が驚いてる。
「どういう事です? 」
樹老人が睨むように親父に聞いた。
「おおざっぱな事しか知らないけどね」
「私にも聞かせて貰いたい」
「いや、それは無理だろ。そっちはそっち側で聞いてくれ」
親父が困ったように答えた。
「何か女媧殿がなさったとでも? 」
「出来るわけないだろ? 上の上だよ」
親父が上を指差した。
樹老人が凄く驚いた顔をした。
「まあ、父親として言っておく。二人とも思った通りにやれ。もう一人の奴の思うとおりにさせるな。まあ、これだけかな」
「え? と言う事はヤバイ奴なの? 」
俺が不安そうに聞いた。
ミツキも困惑してる。
「いや、やばい事は無い。断言するがな。非常に正しい事だろうよ。ただ考え方が違う。上の上は凄い永い永いスパンで考えるから、お前とは違う判断をする可能性が高い。でも、それはお前の人生で考えたら違うだろ? だから、思った通りやれ。正直、俺みたいな超下っ端じゃ、それしか言えんわ」
親父が困ったようにだけど、本当に見た事も無い位に優しい顔で俺達を見た。
「良い話の時にすまんが、アマゾネスは諦めるのか? 」
国王と宰相やホアンが見ている。
「むぅ、とりあえず、目の前の触手の話を大切にしろと言う話だな。親父」
俺が親父に聞いた。
「うむ。その通りだ」
親父が胸を張って答えた。
「良い話が台無し」
ミツキが呆れた顔をする。
「何か、何か、手は無いのか」
俺が忌々しげに爪を噛んだ。
「「いや、目の前の大事な事はこっちの話だろう? 」」
雛とウィリアム少佐が茫然としてる。
だが、俺や親父をはじめ国王達はそれを無視した。
その時だ。
奇跡が起こった。
アマゾネスの船が一斉に何か白いものに押されて戻ってくる。
「な、何だあれは? 」
国王が叫んだ。
「白いものが束になってアマゾネスの船をこちらに押し戻してる」
宰相が震えるような顔をした。
「こ、これは? 」
ひときわ大きな白いものがザバリと海に顔を出して、こちらに笑顔を見せるようにクーと言った。
「ま、まさか、シーサーペント達が……お、俺達の為に……」
俺の目に涙が浮かぶ。
国王も宰相もイジュウイン大公たちも涙を爆涙させた。
「ふっ、これが仲間思いのシーサーペント達の仕業とは」
親父も指で目を拭った。
「すばらしい」
「神の生物だ」
周りにいる衛兵達がざわめく。
「おい、こっちの世界って馬鹿しかいないのか? 」
雛がすんごい顔してる。
「ふっ、いつまでも子供の心を持った男達と呼んでほしい」
俺が雛に笑った。
横で親父が頷いている。
「まさに、心は子供、身体は大人とコ〇ン君の反対バージョンですな」
イジュウイン大公が良い笑顔だ。
「それ、単なる困ったおじさんじゃないのかの」
樹老人が無表情に答えた。
シーサーペントに追いやられて、ドンドンとアマゾネスの船が岸に近づく。
「お前達の努力。無駄にしないぜ! 」
ホアンがシーサーペイント達にキラリと歯を輝かせて、海にザブリと飛びこんだ。