第二十三部 第六章 シュウジ
隣の部屋の襖が大きく開かれた。
そこに親父がいた。
何だか知らないが、浴衣を着て襖を開けて仁王立ちしてる。
「お、親父」
「シュウジ」
俺と国王達がそれぞれ驚いた顔をする。
「どうだろう。君達はうちの息子の嫁になるんだろう? それなら、私の娘も同じだ」
親父がいつもの言い方と違い、私だなんて言ってる。
「うちの息子に、あの伝説の伝統芸を見せてやってくれないかな? 」
くっ、どうした事だ。
親父の背後に後光が差して見える。
これは、まさか阿弥陀様?
極楽が来たのか?
「おやじ……それはどういう事かな」
ミツキの声が怖い。
ガチで怖い。
「触手を侮るな! 」
親父が俺の許嫁達を一喝した。
「「「「「「「は? 」」」」」」
やばい、何か許嫁達がドン引いてる。
「いいか、そもそも、日本には荒縄で縛るSMプレイがある。それはエロと言うものじゃ無い。エロスなのだ」
うわぁ、何言い出すんだ、この親父。
許嫁達がさらにドン引いてる。
「エロスとは本来はギリシャ神話の愛の神から取った物、欲望から来る愛であるが、つまりは人間の欲望をさらけ出した、パッションを意味する芸術なのだよ」
シュウジが演説するかのようだ。
やべー、何言ってんだか、わかんねー。
「つまりだ。触手もこの荒縄SMから進化したエロスの進化型結晶なのだ。つまり、ヤマトの芸術なんだ」
すっげー強引だ。
無茶苦茶やん。
でも、これは良いかもしれない。
訳の分からん話をされてるんで、許嫁達も頷くしか無くなってる。
「それに比べて、最近の日本の異世界エロの嘆かわしい事。昔は触手で芸術的だったのに、今の一番はゴブリンとかオーガとかのレ〇プものばかり。嘆かわしい。どこに侘び寂びがあると言うのだ」
親父がさらに訳の分かんない事を真剣な顔で言った。
「なるほどな。所詮はレ〇プ物。芸術では無い」
国王が深く頷いた。
「そうだ、あれのどこにエロスがあるのだ。汚いおっさんをゴブリンとオーガに入れ替えただけではないか」
親父の目に薄らと涙が流れている。
「むう、流石、兄貴だ」
宰相も深く頷いた。
「異世界エロもここまで堕ちるとは悲しい限りだ。だからこそ、本来に立ち帰って考えなければならない。つまり、触手エロをもう一度、ルネッサンスするのだよ」
親父が力説してる。
何言ってんだか、分かんないが、許嫁が頷いてる。
訳わかんないし、気迫が凄いから頷かざるを得ないと言う事か。
「触手とは芸術なんだよ。だからこそ、これから産まれてくる私の孫の為に息子に見せてやってくれないかな? これは言わば胎教と言う意味合いもあるんだ」
触手が胎教って無茶苦茶やんと思いつつも俺の目に涙が溢れてくる。
ふと見ると、国王も宰相もイジュウイン大公もヨシアキ大佐や衛兵たち、そしてホアンですら涙を流している。
「ふっ、そこまで言われたら、頑張らないとな」
ホアンが涙をうっすらと流しながら、タコの足を磨くような仕草をした。
「胎教と言うなら仕方がないですね」
気迫に押されてアオイも頷いた。
「ありがとう、娘達よ」
親父が笑った。
うまい。
ここで、許嫁達の嫁としての立場を強調するとは。
恐るべし、親父。
「なんで、馬鹿しかいないのかなぁ」
横で、樹老人が見た事も無い、絶望的な顔をしている。
よし、見なかった事にしよう。