第二十二部 第十二章 何か
「君みたいに頑丈で根性があるなら、僕も結婚できたかもしれないのに、残念」
笑いながら魔人が俺に近づいてくる。
俺がめり込んだ壁から無理矢理暴れるように身体を起こすと、その衝撃で、めり込んだ建物の壁の固まりが上から目の前に落ちてくる。
それを、一直線に蹴りあげて、壁の固まりをサッカーボールのように魔人の顔面に叩き込んだ。
が、それは斬馬刀で綺麗に払いのけられた。
「へー、本当に凄いね。この状況でまわりのものを活用する余裕があるんだ」
魔人の歓喜の笑みが止まらない。
ひょっとすると、俺の抵抗って、こいつを喜ばすだけかもしれない。
だけど、こんなつまらない死に方も嫌だしな。
と言いつつ、実はそこに魔人が止まってて欲しかっただけだったりして。
龍女さんが離れた所から対地対艦ライフルを魔人に向けて狙っていたのだ。
普通のビームライフルでは殺せないと言うのは俺も同意だが、対地対艦ライフルは威力があるのでここでは撃つのを躊躇してたようだ。
だから、魔人のお前に抵抗してお話をして、その撃ちやすい場所に足止めしたかったわけだ。
「ごめんね」
俺が呟いた。
「ん? 何? 」
魔人が言いながら、何か黒い闇のような力を斬馬刀に乗せて、龍女さんの対地対艦ライフルの狙撃されたビームを平気で斬り受けた。
「うっそ。反則やん」
流石の俺も顔が歪む。
「へー、ここに僕を固定して狙撃させるために、いろいろとやってたんだ。本当に、君、面白いね」
魔人がにやっと笑う。
まずい。
流石にこちらもネタ切れだ。
「どうでしょう。土下座で許していただくと言うのは? 」
「馬鹿じゃないの? 」
カルロス一世が、俺の言葉が聞こえたらしく、乱戦の合間でツッコミをしてくる。
勘弁してください。
ガチで血が流れ過ぎたっぽい。
こっちも必死だったりする。
さっきの狙撃を躱されたのが致命的だ。
「だーめ。君の残りのエネルギーは僕が貰うよ。出血で弱ってても、<終末の子>だからそれなりに相当あると期待してるんだ」
凄くうれしそうに張り付いた笑顔で俺に言うと、俺の身体に手をふれた。
俺が意識が飛びそうになる。
身体から何か吸い上げられてるような感じがする。
なるほど、これで、干からびて風化するんだ。
本当に参った。
意識が遠のく。
と同時に何かが俺の中で弾けた。
頭が無に近くなる。
魔人が突然に弾き飛ばされた。
「おやおや、とうとう出て来たね」
魔人が意識の飛びかけている俺に向けて斬馬刀を構えた。
魔人の顔から笑みが消えている。
と同時に、ミツキが魔人に金色の剣で斬りつけた。
いつのまにか、ミツキが聖樹装兵の着装をといている。
それだけで無く、ミツキの全身が金色に輝いていた。
「お兄様はまだ起き無くて良いわ。私がやるから」
声が違う。
ミツキの声じゃない。
ぼんやりとした視界の中でそれが分かる。
「お兄様を苦しめた悪い子」
その声が辺り一帯に見た事も無いような威圧的な気配をまき散らす。
そこに居る全員が身震いした。
「は、こちらも出て来たかい」
魔人が忌々しげに呟いた。
ミツキが動く。
魔人がそれに合わせて斬馬刀を振るが、斬馬刀ごと持っている右手が斬り落とされる。
「ひぃぃぃぃぁああぁぁあぁぁぁぁぁああああああああ! 」
魔人の絶叫が響き渡る。
ダグダ師匠と斬り合っていた聖王がダグダ師匠に斬りつけられながらも、構わずにミツキの前に魔人の盾となりに来た。
一瞬で聖王は金色のミツキに両断されて塵になる。
本当に瞬時の出来事だった。
「おおおぉぉぉとととととうぅぅぅぅぅぅさささささささままままま! 」
魔人の叫びもむなしく、ミツキがさらに一歩前に出て、一瞬にして上段から袈裟切りに魔人が両断されて塵になった。
信じがたい剣速だ。
あれでは防御も何も意味しない。
「お兄様がお出になるのは、もう少し先ですから」
金色に輝くミツキが笑った。
そこで、俺の意識が途切れた。
台風でどえらい事になってる皆さんが、何とか助かりますように。
何とか、無事で被害も無くて終わりますように(人)




