全部社会が悪いんやっ! ONCE AGAIN第六十八部 文月凪(ふみつきなぎ)視点 抜け道 第五章
「おかしいって? 」
などと俺がいつもの如く喋っているので一条和馬が即座に反応した。
「何がおかしい? 」
祝融さんも不思議そうに聞いてきた。
「普通、会うのを恐れていた奥さん達が来たとして、完全に捕まった後であんなに抵抗しますか? 」
「なるほどな。義兄弟も捕まったら諦めてなすがままにされているし」
「そうでしょう? そして、普段なら人に紛れて見つからない場所に移動するはずなのに、明確に神殿に向かっていたんですよ? 」
「言われてみればそうだな。いまだに何か必死に嫁達に話しかけている。囁いているようだから、こちらには聞こえないが……」
一条和馬もそのおかしさに気が付いたようだ。
「つまり、危機は去っていないと? 」
祝融さんが静かに中腰になった。
移動するためである。
「バラバラに行きましょう」
「目立たないように」
そう俺と涼月東が話す。
「いやいや、やばいなら、皆にそれを言うべきでは? 」
などと神無月涼さんが話す。
俺と涼月東が首を左右に振った。
それは悪手であると。
「我々の文月家にはどういう場合にはどうすればいいかというのが代々に残っております。それには獅子の中にいるときは皆に知らせてはならないと言う言葉があります。つまり、我々は逃げる方向で考えているのに獅子のような戦闘集団だと逆によっしゃ戦闘だと喜んでしまうのです。そうすると、知らせて一緒に逃げるはずが一緒に戦うことになってしまいます。これは絶対に避けねばならないことです。あの手の戦闘集団にとって戦いが始まることはご褒美でしかないのです」
俺が小声だがきっぱりと言い切った。
よっしゃ戦争だ、ヒャッハー!
などと言う集団と我々は違うのだと説明する。
「もし、近くにいたら、よし、戦うぞ! お前達も一緒に来いとか連れてかれちゃいますよ。私の祖父が同じようになって、利き手を失って帰ってきましたから」
などとヘビィな話を涼月東が続けた。
それで皆が目を合わせて、じりじりとバラバラに神殿に移動を始めた。
それは心の師匠のカルロス一世が行ったように別の鉄板に食べるものを探しに行くような気軽さで動いていくのだ。
ちょうど、心の師匠のカルロス一世が嫁さん達に捕まって連れていかれたせいで宴はたけなわである。
その時、ちらと心の師匠のカルロス一世が泣きそうな顔で移動している俺達を見た。
多分、このまま戦闘に巻き込まれたら最前線で奥さん達と戦うんだろうな。
「前の記憶があるからな。もともとは本来ならこの時点では勇猛で有名な国王だったが、流石に今は妻達にけちょんけちょんにされた後の記憶を持っているからなぁ」
などとアポリトさんが呟いた。
そして、俺達が思い思いにじりじりと神殿の一番近くの鉄板のあたりに移動したときに、それは起こった。
爆龍王ゴウオウがおとなしく肉を食べていたのに、咆哮を上げたのだ。
突然、戦闘態勢に移ったと言っていい。
爆龍王ゴウオウを操れるとしたら、修二さんともう一人の修二さんしかいない。
だが、一斉に戦闘集団だけあって、戦闘隊形に燐族も龍族も移行した。
流石だ。
戦闘が楽しみなんで、何とも思ってない。
そして、悲鳴を上げながら、近くの強襲型の蒼穹船に心の師匠のカルロス一世が妻たちに引きずられて連れていかれていた。
やはり文月家の言葉は間違いない。
一緒に戦わされるのだろう。
「一体、どこからもう一人のヒモが操っているんだ? 」
などと祝融さんが不思議そうに呻く。
すでに俺たちは爆龍王ゴウオウの咆哮の時点で一気に神殿に走りこんでいたので、とりあえずは安全である。
その瞬間に、爆龍王ゴウオウが最大級の爆炎攻撃を空に向かって放った。
それは異様な歪みを見せて上空へと上がっていく。
「ああ、なるほど、内側からの攻撃は外まで通してしまうんだ」
アポリトさんが感心していた。
つまり、爆龍王ゴウオウの攻撃で上の複雑な空間の歪みを通る通り道をもう一人の修二さんに教えさせたのである。
しかも、この様子だと、燐族と龍族が焼肉パーティーするのも予想していたのではと思う。
彼らを腹いっぱいにしてから戦わせることで戦力を弱体化させることまで見ていたのだと思われた。
つまり、俺たちはもう一人の修二さんに嵌められたのである。




